判旨
私選弁護人が公判期日に不出頭であった場合に、裁判所が新たに国選弁護人を選任し、当該国選弁護人が既提出の控訴趣意書に基づき弁論を行う手続は、憲法32条および刑訴法289条に違反しない。
問題の所在(論点)
私選弁護人が欠席した公判期日に国選弁護人を選任し、既提出の控訴趣意書に基づき弁論を行わせる手続が、刑訴法289条および憲法32条に違反するか。
規範
必要的弁護事件(刑訴法289条1項)において、弁護人が出頭しないときは、裁判所は職権で弁護人を選任しなければならない(同条2項)。この場合、選任された国選弁護人が、従前の私選弁護人が提出した控訴趣意書の内容を継承して弁論を行うことは、被告人の防御権を確保するための適法な手続として許容される。
重要事実
被告人の私選弁護人が、期日の変更請求等の適切な手続を怠ったまま、控訴審の公判期日に出頭しなかった。これを受け、原審裁判所は当該期日に新たに国選弁護人を選任した。選任された国選弁護人は、それまでに私選弁護人が提出していた控訴趣意書に基づいて弁論を行った。被告人側は、この手続が刑訴法289条の解釈を誤り、憲法32条(裁判を受ける権利)に違反すると主張して抗告した。
あてはめ
本件では、私選弁護人が正当な理由なく期日に出頭せず、職権により速やかに国選弁護人が選任されている。国選弁護人は、前任の私選弁護人が作成・提出した控訴趣意書の内容を踏まえて弁論を行っており、実質的な弁護活動が担保されているといえる。したがって、訴訟遅延を回避しつつ、必要的弁護の要請を満たすための適切な措置が講じられており、手続に違法な点は認められない。
結論
本件の訴訟手続に違法はなく、憲法32条違反の主張も根拠を欠く。したがって、本件抗告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和28(し)56 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足るものであること、同条項後段の規定は被告人が貧困その他の理由で弁護人を依頼できないときは国に対して弁護人の選任を請求できるものであり、国はこれに対して弁護人を附すれば足るも…
必要的弁護事件において、私選弁護人の不出頭による審理停滞を回避するための実務指針となる。国選弁護人による「既提出書面に基づく弁論」が、防御権侵害に当たらない適法な運用であることを確認した事例である。答案上は、迅速な裁判と実質的弁護の調和の観点から引用可能である。
事件番号: 昭和28(し)67 / 裁判年月日: 昭和28年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の最終提出日直前に別罪で逮捕勾留されたために提出が遅れた場合であっても、刑訴法386条1項1号に基づく控訴棄却決定は、被告人の弁護権行使を不当に制限するものではなく、憲法13条等に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は控訴を提起したが、控訴趣意書の最終提出日の2日前に別罪により逮捕勾留…
事件番号: 昭和30(し)49 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の差出期間内に弁護人が選任されず趣意書が提出されなかった場合であっても、それが被告人の責に帰すべき事由によるものであり、裁判所が弁護人選任権を妨げた事情がない限り、控訴棄却の決定は憲法に反しない。 第1 事案の概要:詐欺被告事件の控訴審において、裁判所は控訴趣意書の差出最終日を2月10日…
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…
事件番号: 昭和28(し)68 / 裁判年月日: 昭和28年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条は、国民が裁判所以外の機関によって終局的に裁判されないことを保障するものであり、訴訟法が定める特定の管轄権を有する裁判所で裁判を受ける権利までを保障するものではない。 第1 事案の概要:弁護人が、被告人の受ける裁判について、訴訟法上の管轄権等に関する違法があるとして、憲法32条違反を理由…