強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控訴趣意書の最終提出日を通知するにあたり、まだ弁護人の選任届が提出されていない場合でも、先ず弁護人を選任したうえでなければ右通知をすることができないものではない。(昭和二四年(れ)第二三八号同年一一年三〇日大法廷判決第三巻二号一八五七頁参照)
控訴趣意書最終提出日の通知と弁護人選任の要否
刑訴法272条,刑訴法376条1項,刑訴法388条,刑訴法289条,刑訴法389条,刑訴規則236条1項,刑訴規則177条,刑訴規則178条
判旨
被告人に弁護人がいない場合でも、裁判所が弁護人選任の機会を与え、その行使を妨げていないのであれば、国選弁護人を付さずに控訴趣意書提出期限の通知をしても憲法37条3項に反しない。被告人が自ら弁護人を選任した場合には、裁判所は国選弁護人を選任する義務を負わず、期間内の趣意書不提出が弁護人側の責任に帰せられるときは、手続は適法である。
問題の所在(論点)
被告人に現に弁護人が付いていない状態において、裁判所が控訴趣意書提出期限の通知をすることが、憲法37条3項および刑事訴訟法の規定に違反するか。
規範
憲法37条3項前段の弁護権は被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所は被告人にその行使の機会を与え、行使を妨げなければ足りる。被告人が自ら弁護人を依頼できる場合には、裁判所は国選弁護人を選任する義務を負わない。また、裁判所が控訴趣意書提出期間を通知する際、被告人に現に弁護人がいない場合であっても、直ちに国選弁護人を付すべき義務はない。
重要事実
事件番号: 昭和47(し)16 / 裁判年月日: 昭和47年4月3日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りるものであること、同項後段の規定は、被告人が弁護人を依頼することができないときは、国に対し弁護人の選任を請求する権利があることを認めたものであつて国はかかる請求がなされたと…
原審は被告人に対し、弁護人を選任できる旨および貧困等の場合には選任請求ができる旨を通知した。被告人はこれに対し、自ら弁護人を選任した旨を回答した。その後、裁判所は控訴趣意書提出期限(9月26日)を被告人に通知した。弁護人の選任届は9月13日に提出されたが、提出期限までには2週間の猶予があった。しかし、弁護人は期限内に控訴趣意書を提出しなかった。
あてはめ
本件では、裁判所は被告人に弁護人選任の機会を適切に与えており、被告人も自ら弁護人を選任しているため、裁判所に国選弁護人の選任義務は生じない。また、弁護人選任届の提出から提出期限まで2週間の猶予があり、被告人と弁護人の住所がいずれも同一市内に所在していたことに鑑みれば、弁護人は十分な連絡により期限内に趣意書を提出し得たといえる。したがって、期限内に提出がなされなかったのは弁護人側の責任であり、裁判所の手続に違憲・違法はない。
結論
被告人に弁護人がいない状態で控訴趣意書提出期限を通知しても、弁護人選任の機会が保障されている限り憲法違反とはならず、本件の棄却決定は妥当である。
実務上の射程
本判決は、弁護権保障の本質が「機会の付与」にあることを示している。実務上は、私選弁護人を選任する意思がある被告人に対し、裁判所が画一的に国選弁護人を付す必要がないことを確認する際に用いる。ただし、現在の実務では控訴審の国選弁護規定が整備されているため、当時の手続背景(旧法下の運用等)に留意しつつ、弁護権の具体的な保障の程度を論ずる際の素材とする。
事件番号: 昭和43(し)82 / 裁判年月日: 昭和44年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件であっても、裁判所が被告人に弁護人を選任する機会を与え、その行使を妨げていないのであれば、控訴趣意書の差出最終日までに弁護人が選任されなかったとしても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:必要的弁護事件において、控訴審の控訴趣意書提出期限までに弁護人が選任されなかった事案。…
事件番号: 昭和28(し)56 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足るものであること、同条項後段の規定は被告人が貧困その他の理由で弁護人を依頼できないときは国に対して弁護人の選任を請求できるものであり、国はこれに対して弁護人を附すれば足るも…
事件番号: 昭和32(し)44 / 裁判年月日: 昭和32年11月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が私選弁護人を選任する旨を回答しながら、その後弁護人を選任せず、控訴趣意書の提出期間を徒過した場合には、裁判所が職権で弁護人を選任しなくとも憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は有罪判決に対し控訴を申し立てた。原審裁判長は、控訴趣意書提出最終日および公判期日を指定し、弁護人…
事件番号: 昭和25(し)23 / 裁判年月日: 昭和25年6月26日 / 結論: 棄却
抗告人は原上告審において適法な公判期日の通知を受けて迅速な公開裁判を受ける權利と機會を與えられ乍ら決定の期間迄に上告趣意書を提出せず自らその權利の行使を怠つたものである。そうして記録を精査しても原裁判所が抗告人の上告趣意書の提出を妨げた事跡は認められないのであるから原裁判所が上告趣意書不提出の故を以て抗告人の原上告申立…