抗告人は原上告審において適法な公判期日の通知を受けて迅速な公開裁判を受ける權利と機會を與えられ乍ら決定の期間迄に上告趣意書を提出せず自らその權利の行使を怠つたものである。そうして記録を精査しても原裁判所が抗告人の上告趣意書の提出を妨げた事跡は認められないのであるから原裁判所が上告趣意書不提出の故を以て抗告人の原上告申立を決定を以て棄却したことが迅速な公開裁判を受ける權利を保障した憲法第三七條第一項に違反するとの所論は既にその前提において理由なく、又それが公平な裁判所の裁判でないといえないことも當然である。論旨は理由がない。
決定の期間内に上告趣意書を提出しなかつた場合決定を以て上告を棄却することと憲法第三七條第一項
刑法37條1項,舊刑訴法427條
判旨
憲法37条3項の弁護権は裁判所による権利行使の機会提供を意味し、被告人の請求がない限り裁判所に国選弁護人選任義務はない。また、法定期限内に上告趣意書を提出しないことは自ら権利行使を怠ったものであり、同条1項の裁判を受ける権利に反しない。
問題の所在(論点)
被告人の請求がない場合に裁判所が国選弁護人を付さないこと、および法定期限後の上告趣意書提出を認めず上告を棄却することが、憲法37条3項(弁護人依頼権)および同条1項(裁判を受ける権利)に違反するか。
規範
憲法37条3項はすべての被告事件を必要的弁護事件とする趣旨ではなく、裁判所は被告人に弁護人選任の権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りる。被告人の請求がない限り、裁判所が進んで弁護人を選任する義務はない。また、裁判の手続や条件は法律に委ねられており、法定期限の徒過は、被告人が自ら憲法37条1項の保障する裁判を受ける権利の行使を怠ったものと解される。
重要事実
抗告人Aは、必要的弁護事件ではない本件において、自ら国選弁護人の選任を請求せず、かつ裁判所もその選任を妨げなかったが、弁護人が付されなかったことを不服とした。抗告人Bは、旧刑事訴訟法に基づく上告趣意書の提出期限(第1回公判期日の15日前)を徒過し、第1回公判期日までに提出したものの、期限徒過を理由に上告棄却の決定を受けた。
事件番号: 昭和47(し)16 / 裁判年月日: 昭和47年4月3日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りるものであること、同項後段の規定は、被告人が弁護人を依頼することができないときは、国に対し弁護人の選任を請求する権利があることを認めたものであつて国はかかる請求がなされたと…
あてはめ
抗告人Aについては、本件が必要的弁護事件ではなく、被告人から国選弁護人選任の請求もなされていない以上、裁判所が自ら弁護人を選任しなかったことは正当である。抗告人Bについては、適法な公判期日の通知を受けながら法定期限内に趣意書を提出しなかったことは、裁判の準備期間を確保するという合理的要請に基づく法律上の義務を怠ったといえる。期日までの提出があっても期限徒過の瑕疵は治癒されず、権利行使の機会は与えられていたといえる。
結論
憲法37条1項及び3項に違反しない。裁判所が国選弁護人を付さなかったこと、および期限徒過を理由に上告を棄却した判断は、いずれも妥当である。
実務上の射程
弁護人依頼権の「機会の保障」という性質を明確にした。実務上は、必要的弁護事件でない場合、被告人の明示的な請求がなければ選任義務が生じないこと、また訴訟経済や準備期間の確保を目的とする不変期間の厳守が、裁判を受ける権利の不当な制限にはあたらないことを主張する際の根拠となる。
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…
事件番号: 昭和43(し)82 / 裁判年月日: 昭和44年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件であっても、裁判所が被告人に弁護人を選任する機会を与え、その行使を妨げていないのであれば、控訴趣意書の差出最終日までに弁護人が選任されなかったとしても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:必要的弁護事件において、控訴審の控訴趣意書提出期限までに弁護人が選任されなかった事案。…
事件番号: 昭和24(つ)96 / 裁判年月日: 昭和25年4月21日 / 結論: 棄却
舊刑訴法第三八七條が代人の過失によつて上訴期間を徒過した場合上訴權回復の請求權なきものとしたのは違憲ではない。
事件番号: 昭和32(し)44 / 裁判年月日: 昭和32年11月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が私選弁護人を選任する旨を回答しながら、その後弁護人を選任せず、控訴趣意書の提出期間を徒過した場合には、裁判所が職権で弁護人を選任しなくとも憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は有罪判決に対し控訴を申し立てた。原審裁判長は、控訴趣意書提出最終日および公判期日を指定し、弁護人…