判旨
被告人が私選弁護人を選任する旨を回答しながら、その後弁護人を選任せず、控訴趣意書の提出期間を徒過した場合には、裁判所が職権で弁護人を選任しなくとも憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が私選弁護人を選任する意向を示しながら放置した場合に、裁判所が職権で弁護人を選任せずに控訴棄却決定を下すことは、憲法37条3項の弁護人依頼権を侵害するか。
規範
憲法37条3項が保障する弁護人依頼権は、被告人が自らその権利を行使できる機会を保障するものである。裁判所が弁護人選任に関する通知を行い、被告人が自ら選任する意向を示した上で十分な猶予期間があったにもかかわらず、自らの懈怠により弁護人を選任せず、かつ職権選任の請求も行わなかった場合には、裁判所が職権で弁護人を選任しなくとも同条に違反しない。
重要事実
被告人は有罪判決に対し控訴を申し立てた。原審裁判長は、控訴趣意書提出最終日および公判期日を指定し、弁護人選任に関する通知書を一括して被告人に送達した。これに対し、被告人は「弁護人は私選する、現在手続中である」旨の回答書を提出したが、その後弁護人を選任せず、控訴趣意書も提出しないまま差出期間を徒過した。そのため、原審は刑訴法386条1項1号に基づき控訴棄却決定を下した。
あてはめ
原審は被告人に対し、弁護人選任に関する通知を行っており、被告人は自ら私選する旨を回答していた。その後、被告人が弁護人を選任することが困難な事情が生じたのであれば、改めて弁護人選任の請求(国選弁護の請求等)を行う余裕は十分にあったといえる。それにもかかわらず、被告人が何らアクションを起こさず漫然と期間を徒過したことは、被告人自身の懈怠に基因するものである。したがって、裁判所が被告人の権利行使を妨げた事跡は認められない。
結論
原審が職権で弁護人を選任せず、控訴趣意書の不提出を理由に控訴を棄却した判断は正当である。
事件番号: 昭和43(し)82 / 裁判年月日: 昭和44年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件であっても、裁判所が被告人に弁護人を選任する機会を与え、その行使を妨げていないのであれば、控訴趣意書の差出最終日までに弁護人が選任されなかったとしても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:必要的弁護事件において、控訴審の控訴趣意書提出期限までに弁護人が選任されなかった事案。…
実務上の射程
本判例は、被告人の自己責任原則を強調する。被告人が「私選する」と明言した以上、裁判所に特段の配慮(職権選任等)を求めることはできず、提出期限徒過の不利益は被告人が負うべきという論理で、控訴棄却の適法性を肯定する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和47(し)16 / 裁判年月日: 昭和47年4月3日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りるものであること、同項後段の規定は、被告人が弁護人を依頼することができないときは、国に対し弁護人の選任を請求する権利があることを認めたものであつて国はかかる請求がなされたと…
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…
事件番号: 昭和28(し)56 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足るものであること、同条項後段の規定は被告人が貧困その他の理由で弁護人を依頼できないときは国に対して弁護人の選任を請求できるものであり、国はこれに対して弁護人を附すれば足るも…
事件番号: 昭和30(し)49 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の差出期間内に弁護人が選任されず趣意書が提出されなかった場合であっても、それが被告人の責に帰すべき事由によるものであり、裁判所が弁護人選任権を妨げた事情がない限り、控訴棄却の決定は憲法に反しない。 第1 事案の概要:詐欺被告事件の控訴審において、裁判所は控訴趣意書の差出最終日を2月10日…