判例違反の主張が事案異とされた事例
判旨
被告人が選任した弁護人に十分な時間がありながら控訴趣意書を提出せず、期限当日に辞任した場合には、控訴棄却決定は有効であり、弁護権の侵害や手続の不備には当たらない。
問題の所在(論点)
弁護人が控訴趣意書の提出期限当日に辞任し、結果として趣意書が提出されなかった場合に、刑訴法386条1項1号に基づく控訴棄却決定をすることが、被告人の弁護人依頼権を侵害し、違法・違憲となるか。
規範
控訴趣意書提出期限までに弁護人が選任されており、かつ当該弁護人において控訴趣意書を提出するに足りる十分な期間があったといえる場合には、期限の徒過は被告人の自己責任の範疇に属し、裁判所が控訴棄却決定(刑訴法386条1項1号)を行っても、弁護人依頼権(憲法37条3項)や適正手続に反しない。
重要事実
被告人が自ら選任した私選弁護人が存在していた事案である。当該弁護人は、控訴趣意書の提出期限までに提出準備のための十分な時間を与えられていた。しかし、当該弁護人は期限までに控訴趣意書を提出せず、あろうことか提出期限の当日になって弁護人を辞任した。これにより控訴趣意書が未提出のまま期限を徒過した。
あてはめ
本件では、控訴趣意書の提出期限まで弁護人が全く選任されていなかった事案とは異なる。被告人は自ら弁護人を選任しており、その弁護人には趣意書を提出するための「十分な時間」が確保されていた。期限当日の辞任という弁護人の不適切な対応があったとしても、裁判所が期間を確保していた以上、手続的な保障は尽くされている。したがって、期限内に趣意書が提出されなかったことを理由とする控訴棄却は、法令の規定に従った正当なものといえる。
結論
事件番号: 昭和30(し)49 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の差出期間内に弁護人が選任されず趣意書が提出されなかった場合であっても、それが被告人の責に帰すべき事由によるものであり、裁判所が弁護人選任権を妨げた事情がない限り、控訴棄却の決定は憲法に反しない。 第1 事案の概要:詐欺被告事件の控訴審において、裁判所は控訴趣意書の差出最終日を2月10日…
控訴趣意書提出期限までの期間が十分であった以上、期限当日の弁護人辞任による未提出を理由とする控訴棄却決定は適法である。
実務上の射程
控訴趣意書の提出遅延における「弁護人の欠落」の帰責性を判断する際の境界線を示す。弁護人が一度も選任されない場合は裁判所の職権選任義務が問題となるが、本判例のように「選任されていたが不誠実であった」場合は、特段の事情がない限り被告人側の責任として処理される。実務上は、提出期限までの期間の十分性を検討する際の論拠となる。
事件番号: 昭和28(し)67 / 裁判年月日: 昭和28年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の最終提出日直前に別罪で逮捕勾留されたために提出が遅れた場合であっても、刑訴法386条1項1号に基づく控訴棄却決定は、被告人の弁護権行使を不当に制限するものではなく、憲法13条等に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は控訴を提起したが、控訴趣意書の最終提出日の2日前に別罪により逮捕勾留…
事件番号: 昭和60(す)230 / 裁判年月日: 昭和61年1月22日 / 結論: 棄却
上告棄却決定に対し弁護人選任届のない弁護士名義で意義申立書が提出された場合において、異義申立期間経過後にその弁護人選任届が追加提出されても、これによつて右の異議申立が適法有効となるものではない。
事件番号: 平成21(し)205 / 裁判年月日: 平成21年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件において、私選弁護人が期間延長が認められないことを理由に控訴趣意書を提出せず辞任した場合、弁護人が不在であっても期間徒過による控訴棄却は認められる。 第1 事案の概要:殺人等で懲役11年の判決を受けた被告人が控訴。第1審の記録は2冊で、当初の私選弁護人3名が辞任後、新たに金岡弁護士が…
事件番号: 昭和28(し)56 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足るものであること、同条項後段の規定は被告人が貧困その他の理由で弁護人を依頼できないときは国に対して弁護人の選任を請求できるものであり、国はこれに対して弁護人を附すれば足るも…