判旨
別件の勾留中に得られた供述調書であっても、その作成過程に違法が認められず、かつ弁護人の同意を得て証拠調べがなされた場合には、証拠能力が認められる。控訴審が第一審の無罪判決を破棄して自判により有罪を言い渡す際、直ちに独自の事実調べを要するわけではなく、書面審理による事実認定も許容される。
問題の所在(論点)
1. 別件勾留中に作成された供述調書は、憲法34条に違反し証拠能力を欠くか。 2. 控訴審が第一審の無罪判決を破棄して有罪を自判する場合、必ず自ら事実の取調べ(直接主義的審理)を行わなければならないか。
規範
1. 別件勾留中の取調べにより得られた供述調書の証拠能力は、その作成過程において憲法上の権利(34条等)を侵害するような違法な経緯が認められない限り、否定されない。 2. 証拠同意(刑訴法326条)がある場合、適法に証拠調べを行うことができる。 3. 控訴審が第一審の無罪判決を破棄し、自ら有罪の判決を言い渡す(破棄自判)にあたり、必ずしも自ら事実の取調べを行うことを要せず、第一審の記録に基づく書面審理によって反対の心証を形成することも、刑訴法の予定する事後審的性格から許容される。
重要事実
被告人は公職選挙法違反(選挙運動資金の供与等)の事案において、第一審で無罪判決を受けた。検察官が控訴したところ、原審(控訴審)は、検察官作成のAに対する供述調書を証拠として採用した。この調書は、Aが本件とは無関係な被疑事実で逮捕・勾留されている間に取調べが行われ作成されたものであったが、公判では弁護人の同意の下で証拠調べが行われていた。原審は、自ら証人尋問等の事実調べを新たに行うことなく、第一審の証拠記録を中心とした書面審理に基づき、第一審判決を破棄して被告人に有罪を言い渡した。被告人側は、別件勾留中の取調べの違法および事実調べを欠いた破棄自判の違法を理由に上告した。
あてはめ
1. 証拠能力について:記録上、当該供述調書が不当な経緯(強制、拷問等)で作成された事実は認められない。また、第一審において弁護人が証拠として用いることに同意し、適法に証拠調べが行われている以上、その手続に違法はない。 2. 破棄自判の手続について:多数意見は、刑訴法が控訴審を事後審として構成していることを前提に、第一審の証拠資料を再評価して有罪認定を行うことを認める(小林裁判官の少数意見は直接主義の観点からこれを批判するが、法文上、特段の事実調べを必須とする規定はない)。本件においても、書面審理によって第一審と反対の心証を形成した原審の手続に、刑訴法411条該当の違法は認められない。
結論
1. 別件勾留中の取調べによる供述調書であっても、作成過程に違法がなく同意がある以上、証拠能力は認められる。 2. 控訴審は、自ら事実調べを行わず書面審理のみで第一審の無罪を破棄し、有罪を自判することができる。上告棄却。
実務上の射程
別件勾留中の取調べの限界については後の余目事件判決(最判昭37.9.18)等で精緻化されるが、本判決は「同意」がある場合の証拠能力を肯定する実務の流れを示す。また、控訴審の事後審的性格を確認する素材として、特に「書面審理による無罪破棄」の是非という文脈で、少数意見と対比して参照される。
事件番号: 昭和31(あ)1256 / 裁判年月日: 昭和31年7月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述調書が拷問または強制によって作成されたと疑われる場合であっても、裁判所が証拠調べの結果に基づき、当該調書が任意に作成されたものであると適法に判断したときは、その証拠能力を認めることができる。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、本件における供述調書が拷問や強制によって作成されたものであ…