判旨
いわゆる「喧嘩」の事案においても、直ちに正当防衛の余地が否定されるわけではなく、個別の闘争行為の全般を具体的に考察した上で、正当防衛の成否を判断すべきである。
問題の所在(論点)
互いに暴行をやり取りする「喧嘩」の状態にある場合において、正当防衛(刑法36条)の成立する余地があるか、またその判断枠組みが問題となった。
規範
「喧嘩」における正当防衛(刑法36条1項)の成否については、単に喧嘩であるという形式的理由のみをもってその適用を排斥するのではなく、個別の闘争行為の全般を具体的に考察し、急迫不正の侵害の有無や防衛意思の有無、行為の相当性などを総合的に判断して決定すべきである。
重要事実
被告人が被害者Aに対して暴行等の闘争行為に及んだ事案。弁護人は、被害者Aが「盗犯等の防止及処分に関する法律」1条1項3号に規定される不法侵入者または不退去者であることを主張し、被告人の行為が正当防衛または同法に基づく防衛行為に該当すると訴えた。しかし、原審は被害者を不法侵入者等とは認めず、闘争の全般的な経緯に照らして正当防衛の成立を否定したため、被告人が上告した。
あてはめ
最高裁は、原判決が「喧嘩には一切正当防衛が認められない」との一般的抽象的な判断を下したのではなく、本件における「闘争行為の全般を具体的に考察」した結果として、正当防衛の成立を否定したものであると指摘した。具体的には、被害者が不法侵入者等に該当しないという事実認定を維持した上で、一連の闘争経過から被告人の行為が正当防衛の要件を欠くと判断した原審の論理は、従来の判例の趣旨に沿う正当なものであるとした。
結論
闘争行為の具体的状況を考慮して正当防衛を否定した原判断に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
自ら積極的に攻撃に及ぶ、あるいはお互いに攻撃を予期して闘争に及ぶ「喧嘩」事案では、実務上、急迫不正の侵害や防衛の必要性が否定されやすい。もっとも、本判決は、喧嘩であれば一律に正当防衛を排除するのではなく、具体的状況を精査すべきとの姿勢を示しており、相手方の不意の攻撃や質的に異なる過剰な攻撃が行われた際の正当防衛論拠として引用し得る。
事件番号: 昭和25(れ)1636 / 裁判年月日: 昭和26年3月16日 / 結論: 棄却
論旨中に被告人の所為は正当防衛であると主張するが本件は喧嘩闘争によるものであるから正当防衛の成り立つ余地はないのである。