喧嘩闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当つては喧嘩闘争を全般的に観察することを要し、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様のみによつてはならない。
喧嘩と正当防衛
刑法36条,刑法199条
判旨
喧嘩闘争は全般的に観察すべきであり、闘争の一場面のみを捉えて正当防衛の余地を否定してはならず、喧嘩闘争であってもなお正当防衛が成立し得る。
問題の所在(論点)
喧嘩闘争の状況下において、特定の攻撃行為につき刑法36条の正当防衛(または過剰防衛)が成立するか、それとも喧嘩であるという一事をもってその余地が完全に否定されるか。
規範
喧嘩闘争は、当事者双方が攻撃・防御を繰り返す一団の連続的行為であるから、闘争を全般的に観察すべきであり、一場面の攻防のみをもって判断してはならない。もっとも、喧嘩闘争という一事をもって直ちに正当防衛の成立が否定されるわけではなく、全般的な観察の結果として、なお正当防衛(刑法36条)が成立する余地は認められる。
重要事実
被害者Aは遊人であり、配下と共に被告人の主筋であるBらのE会に敵意を抱き、E会員への暴行や刃物を携帯しての押し掛け等、一方的な攻撃を繰り返していた。被告人は、Aらに襲撃されていた仲間を救援する目的で現場に赴いたが、原審は、被告人がAと闘争に至ることを予期していたとして、両者の格闘が開始された後の刺殺行為を「喧嘩闘争の一駒」と認定し、正当防衛の検討を一切排除した。
あてはめ
原審は、A側による一方的な攻撃が先行し、被告人が仲間を救援するという動機を有していた事実を認めながら、特定の段階で喧嘩が開始されたとして闘争の全般的な経緯を軽視した。また、「喧嘩であれば常に正当防衛は成立しない」という前提に立ち、過剰防衛の成否についても検討を尽くしていない。これは喧嘩闘争を全般的に観察すべきとする判例の趣旨に反し、正当防衛の成否を論ずるにあたって判断の基礎となる事実の評価を誤っている。
結論
喧嘩闘争であっても正当防衛の観念を容れる余地はある。原審は闘争の全般を観察せず、または喧嘩には常に正当防衛が成立しないとの誤った前提に立っており、正当防衛・過剰防衛の成否を検討しなかった点は違法であるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
「喧嘩闘争=即座に正当防衛否定」という硬直的な判断を戒める射程を持つ。答案上は、急迫不正の侵害や防衛意思の有無を検討する際、単に「喧嘩である」と認定するだけでなく、闘争の全過程(先行する攻撃の有無や動機の正当性)を具体的に検討し、なお「侵害の急迫性」や「防衛の意思」が認められる余地があることを示す論拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3660 / 裁判年月日: 昭和29年2月2日 / 結論: 棄却
第一審判決の認定した事実によれば、被告人はAにその名を呼ばれたので救いを求められたものと考え、当該場所に行つたのであるが、その後常に攻勢に出で、被害者Bに対し「……その喧嘩は俺が買つた」といい、「同人をその場に引き倒した後場所をかえあらためて勝負をつけようと考え、場合によつてはそれを用いて切りつけんがため前記Cから刺身…