判旨
公職選挙法上の買収罪等において、合法的費用と違法な報酬等が分別されず包括的に授受された場合、合法的部分を区別できなくとも全体について違法な授受が成立する。また、数次にわたる交付と供与の関係が不明であっても、各行為ごとに罪が成立し、総額の中から供与されたという漠然とした関係は犯罪の成否に影響しない。
問題の所在(論点)
1.数次の受交付と供与が混在する場合、個別の対応関係の特定は犯罪の成否に影響するか。2.合法的な費用と違法な報酬等が区別なく包括的に授受された場合、合法的部分が含まれていることを理由に違法な授受の成立が否定されるか。
規範
1.公職選挙法221条1項各号の罪(受交付罪・供与罪等)は、受交付または供与がなされた度ごとに各一罪が成立する。したがって、複数の交付と供与の対応関係が厳密に特定できなくとも、各行為の成立は妨げられない。2.選挙運動実費等の合法的な金員と、買収資金等の違法な金員が、分別されることなく包括的に授受された場合には、その合法的部分を具体的に区別し得ないとしても、当該授受全体について違法な金員の授受としての性質を認めることができる。
重要事実
被告人Aは、被告人Bに対し、選挙運動に関して複数回にわたり合計225万円を交付した。Bはこれを受け取り(受交付罪)、さらに特定の選挙運動者らに金員を供与した(供与罪)。被告人らは、(1)Bが受けた8回にわたる受交付金と33回にわたる供与金の個別的な対応関係が判明していないこと、および(2)授受された225万円の中には合法的選挙費用(約80万円)が含まれているにもかかわらず、区別せず全部を違法と認定したことは不当であると主張して上告した。
あてはめ
1.受交付罪や供与罪は、個々の行為ごとに独立して罪を構成するものである。本件ではBによる8回の受交付と33回の供与が行われており、たとえいずれの受交付金がいずれの供与金に充てられたかという具体的使途が判明しなくとも、各授受行為自体の事実に変わりはない。したがって、総計金額から支弁されたという関係であっても、犯罪の成否に影響しない。2.金員の授受に際し、運動実費や報酬等が分別されることなく包括的に受け渡されている以上、客観的に合法的部分を抽出・分離することは困難である。このような場合には、授受された金員全体が違法な趣旨を含んだものとして扱われるべきである。
結論
1.数次の交付と供与の個別的対応が不明であっても、各罪の成立に影響はない。2.合法的費用が含まれていても、分別なく包括的に授受された以上、全体として違法な授受が成立する。上告棄却。
実務上の射程
公職選挙法違反(買収)における罪数および「包括的授受」の処理を示す。実務上、裏金と実費が混在して渡されるケースは多いが、本判例によれば「分別なく包括的」であれば全体を違法認定できる。答案上は、罪数論における「行為ごとの成立」の原則を確認しつつ、資金の混交がある場合の認定手法として引用すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)2307 / 裁判年月日: 昭和30年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動の報酬と合法的な実費を一括して供与された場合、両者の割合が判明せず区別できないときは、その全額について公職選挙法221条1項4号の供与罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、選挙運動に伴い金員の供与を受けた。この金員には、本来は報酬として禁止される性質のものと、選挙運動の費用(実費)…