検察官の控訴趣意書の謄本を被告人に送達しなかつた違法があつても弁護人においてその謄本の送達を受け答弁書を提出し充分防禦の措置を講じている場合は刑訴第四一一条第一号に該当しない。
刑訴第四一一条にあたらない一事例 ―控訴趣意書の謄本の不送達の場合―
刑訴規則242条,刑訴法411条
判旨
控訴趣意書の謄本が被告人に速やかに送達されなかった場合であっても、弁護人が謄本の送達を受けて答弁書を提出するなど、被告人の防御に欠けるところがないときは、当該手続上の違法は判決の破棄事由には当たらない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟規則242条に基づく控訴趣意書謄本の被告人への送達が遅延した手続違法が、刑事訴訟法411条に基づき原判決を破棄すべき「著しく正義に反するもの」に該当するか。
規範
刑事訴訟法411条1号の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」や、同条柱書の「判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」の判断においては、手続規定の違反があったとしても、被告人の防御権の行使が実質的に保障され、審理の結果に不当な影響を及ぼしていない場合には、原判決を破棄すべき事由とはならない。
重要事実
検察官が控訴を提起した事案において、原審(控訴審)は検察官の控訴趣意書を受理したものの、刑事訴訟規則242条に反し、その謄本を速やかに被告人本人に送達しなかった。一方で、被告人の弁護人に対しては当該謄本が送達されており、弁護人はこれに対して答弁書を提出するなど、被告人の利益を守るための防御措置を十分に講じていた。
あてはめ
本件では、控訴趣意書が被告人本人に速やかに送達されなかったという規則違反が存在する。しかし、弁護人には謄本が送達されており、弁護人はこれに基づいて答弁書を提出し、実質的な防御活動を展開している。被告人の防御権は弁護人を通じて十分に確保されており、本人の受領遅延が審理の適正や結論に実質的な悪影響を与えたとは認められない。したがって、この違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる程度には至っていない。
結論
控訴趣意書謄本の送達遅延という手続上の違法はあるが、弁護人による防御措置が十分になされている以上、破棄事由には当たらない。
実務上の射程
手続規定の違反が直ちに破棄事由となるわけではなく、防御権の侵害や審理への実質的影響(著しい正義に反するか否か)から判断するという実務上の枠組みを示す。刑事訴訟法411条の適用要件を論じる際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)345 / 裁判年月日: 昭和28年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状謄本が被告人に送達された形跡がない場合であっても、それが直ちに判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑訴法411条1号)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人に対し、刑事訴訟法に基づき送達されるべき起訴状謄本が送達された形跡が記録上認められないという事態が生じた。弁護人は、この手続上の不備を…
事件番号: 昭和28(あ)5150 / 裁判年月日: 昭和30年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に無用の法令適用(刑法14条)の誤りがあっても、それが刑の加重等の実質的な不利益をもたらさない場合には、原判決を破棄すべき理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人Aは窃盗および贓物故買の罪に問われた。第一審判決は、これらの罪に対して刑法14条(併合罪の加重等に関する規定)を適用したが、原審…