判旨
起訴状謄本が被告人に送達された形跡がない場合であっても、それが直ちに判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑訴法411条1号)には当たらない。
問題の所在(論点)
起訴状謄本の送達(刑事訴訟法271条等)を欠いたまま公判手続が進められた場合、それが刑訴法411条1号の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」として、上告審による職権破棄の理由となるか。
規範
被告人に対する起訴状謄本の送達に不備があったとしても、その手続上の瑕疵が直ちに刑訴法411条に基づく破棄事由(判決に影響を及ぼすべき著しい法令違反)に該当するわけではない。具体的事案に即して、被告人の防御権が実質的に侵害されたか否かを検討し、著しく正義に反すると認められる場合に限り、例外的に破棄の対象となる。
重要事実
被告人に対し、刑事訴訟法に基づき送達されるべき起訴状謄本が送達された形跡が記録上認められないという事態が生じた。弁護人は、この手続上の不備を憲法違反および法令違反として上告を申し立てた。
あてはめ
本件では、被告人に起訴状謄本が送達された形跡がないことは認められる。しかし、記録によれば原判決の判断は相当であり、起訴状謄本の未到達という事実のみをもって直ちに実質的な防御の機会が奪われたとはいえず、判決の結果を左右するような重大な違反には該当しないと解される。したがって、刑訴法411条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
起訴状謄本の送達欠如は認められるものの、直ちに判決に影響を及ぼすべき法令違反とはいえず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
起訴状謄本の送達欠如という重大な手続違反があっても、それだけで直ちに絶対的控訴事由(379条等)と同様に扱うのではなく、判決への影響の有無を実質的に判断すべきであるとする。答案上では、手続の瑕疵と被告人の防御権の侵害の程度を具体的に比較衡量する際の限界事例として参照できる。
事件番号: 昭和26(れ)1597 / 裁判年月日: 昭和26年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件は、刑事訴訟法405条の上告理由に該当せず、かつ同法411条を適用して判決を破棄すべき顕著な事由も認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対して上告を申し立てた事案。弁護人が提出した上告趣意書に基づき、上告理由の存否および職権破棄事由の有無が争点となっ…