いわゆる必要的弁護事件について控訴審が、刑訴第二八九条に違反し弁護人なくして開廷し審判した手続上の違法があつても、その公判期日に被告人選任の弁護人は適法な期日の呼出を受けたにかかわらず正当の理由なくして出頭しなかつたものであること、同弁護人は、これよりさき適法な控訴趣意書を提出しており、かりに右期日にあらたに弁護人を選任したとしても要するに右趣意書に基いて陳述するに過ぎないのが控訴審の性格上通例であること、右控訴趣意書の内容も被告人の性格、本件犯行の動機、被害の僅少なること等を挙げて原判決の量刑の不当を主張するに過ぎないものであること、及び原判決は、右趣意書について精細審査の上判決していることが判明するような事情がある場合には、右の如き原審の手続上の違法は、未だもつて刑訴第四一一条にいわゆる原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとはみとめられない。
控訴審の手続に刑訴第二八九条違反があるにかかわらず刑訴第四一一条を適用しない一事例
刑訴法289条,刑訴法404条,刑訴法411条
判旨
控訴審における必要的弁護事件で弁護人が欠けたまま審理・判決がなされた手続上の違法があっても、諸般の事情に照らし、判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められない場合には、上告を棄却すべきである。
問題の所在(論点)
必要的弁護事件(刑訴法289条1項)において、控訴審が弁護人の出頭なく審理・判決を行った場合、その手続上の違法は、直ちに刑訴法411条による破棄事由(著しく正義に反する場合)に該当するか。
規範
刑訴法289条1項が定める必要的弁護事件において、控訴審で弁護人が出頭せずに開廷し結審した手続は違法である。もっとも、上告審において当該違法を理由に原判決を破棄するためには、刑訴法411条に基づき、その「判決を破棄しなければ著しく正義に反するもの」と認められる必要がある。その判断にあたっては、弁護人の不出頭の理由、控訴趣意書の提出状況、主張の内容、および原判決による審査の程度等の諸般の事情を総合的に考慮する。
重要事実
必要的弁護事件の控訴審において、被告人が選任した弁護人は適法な期日の呼び出しを受けたにもかかわらず、正当な理由なく公判期日に出頭しなかった。原審は弁護人不在のまま公判を開き、即日結審して判決を言い渡した。なお、弁護人は事前に量刑不当を訴える控訴趣意書を適法に提出しており、原審はその内容を精査した上で判決を下していた。
あてはめ
本件では、(1)弁護人が正当な理由なく不出頭であったこと、(2)控訴趣意書が事前に適法に提出されており、控訴審の性格上、出頭しても同内容の陳述にとどまるのが通例であること、(3)趣意書の内容は量刑不当の主張に過ぎないこと、(4)原審が趣意書の内容を精査した上で判断していることが認められる。これらの事情を勘案すれば、弁護人抜きで審理がなされた違法は存在するものの、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
本件の手続上の違法は刑訴法411条の破棄事由に該当しないため、上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審における必要的弁護の欠如という重大な手続違反があっても、実質的な防御権の行使状況(書面提出等)や不利益の程度を考慮し、一律に破棄されるわけではないことを示した射程を持つ。答案上は、職権破棄事由(411条1号)の検討において、手続違法と実質的不利益の相関関係を論じる際の論拠として使用できる。
事件番号: 昭和27(あ)2098 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護人不在のまま公判が開廷されたとの主張について、記録上その事実が認められない場合には、弁護権の侵害等を理由とする違憲の主張は前提を欠き、上告理由にならない。 第1 事案の概要:被告人が公判において弁護人なしで審理が行われ、弁論の途中で弁護人が選任されたとして、憲法違反および訴訟手続の違法を理由に…