投票買収のため金員の交付を受けた選挙運動者が、さらにその金員の一部を選挙運動者または選挙人に供与したときは、その部分については前の交付を受けた所為は後の供与の所為に吸収されて供与罪のみが成立するが、その供与をしなかつた部分については前の受交付罪が成立する。
選挙運動者が投票買収のため交付を受けた金員のうち一部をさらに供与した場合の罪数とその残余の部分の受交付罪の成否
刑法45条,公職選挙法221条1項5号
判旨
選挙運動者が買収の目的で交付された金銭を、さらに選挙人に対して買収の趣旨で供与した場合には、後者の供与罪のみが成立し、前者の受交付罪はこれに吸収される。
問題の所在(論点)
選挙運動者が買収目的で金銭の交付を受け(受交付罪)、その後、実際にその金銭を他に供与した(供与罪)場合、両罪の関係はいかに解すべきか。一罪として処理されるのか、あるいは併合罪となるのかが問題となる。
規範
公職選挙法等における買収・利害誘導罪において、第三者から買収資金の交付を受けた者が、その趣旨に従って対象者に金品を供与した場合、行為の究極的な目的である供与罪が成立し、その中間段階にすぎない受交付罪は供与罪に吸収される(包括一罪または吸収関係)。
重要事実
被告人から買収資金として計2万2000円の交付を受けた被告人Aが、そのうちの1万2000円を、選挙人らB外5名に対し、買収の趣旨をもって供与した。第一審判決は、供与された部分については供与罪の成立を認め、残りの1万円についてのみ受交付罪の成立を認めていた。
あてはめ
本件において、被告人Aは被告人から買収資金として2万2000円を受領している。このうち、実際に選挙人らに対して供与された1万2000円については、受交付という手段を経て供与という目的を達したものといえる。したがって、この部分については供与罪が受交付罪を包含するものとして評価される。一方で、供与に至らなかった残りの1万円については、受交付罪の段階に留まっていると解される。
結論
交付を受けた者がその金品を選挙人に供与して買収したときは、供与罪のみが成立し、受交付罪はこれに吸収される。本件では、供与した部分については供与罪のみが成立し、残余についてのみ受交付罪が成立するとした判断は正当である。
実務上の射程
買収罪における罪数関係(吸収関係)を認めた射程の長い判例である。答案上は、買収資金の「流れ」に着目し、一連の行為として最終的な供与罪に包含されるか否かを検討する際の根拠となる。資金交付を受けた者が「単なるパイプ」として機能したか、独自の判断で供与したかを問わず、供与が実現した場合には供与罪が主となる点に留意すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)1712 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法等における買収資金等の受交付罪と、その後に行われる実際の買収罪は、それぞれ別個の法益を侵害する行為として成立し得る。時間的・場所的に接着し、同一の目的で行われた窃盗行為等が包括一罪となる事例とは事案の性質が異なり、各行為を個別に評価すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、選挙に際して…