Aの裁判官に対する弁解録取書謄本についてはその証拠調が留保になつていることの所論のとおりであるが、前記第三回公判調書の記載と対照してみれば、検察官においてその証拠調請求を撤回したものと解するのが相当である。そうしてこれは第一審判決に証拠として採用されていないと認むべきこと、前記説明においておのずから明らかであるから、所論引用の判例は適切でない。註。所論は証拠調請求について決定をしない違法が判例と相反するというのである。本件においては同じ公判期日に取調請求され同様決定留保となつた書証は後の期日に決定取調が行われ、所論の書証のみは何らの決定がなかつた場合である。
証拠調請求につき留保したまま決定をしないことの違法性
刑訴法405条,刑訴法298条,刑訴規則190条
判旨
選挙運動の報酬として金員の供与を受けた者が、その金員を自己の意思でさらに他の者に供与した場合であっても、当初の供与を受けた時点で独立した買収罪が成立する。
問題の所在(論点)
他者に配布する資金として交付を受けた者が、その一部を他者に供与した場合において、交付を受けた者自身について買収罪(公職選挙法違反)が成立するか。
規範
公職選挙法上の買収罪において、供与された資金の性質は、受領者が単に他者へ配布するための「中継ぎ」として機械的に受け取ったのか、それとも受領者自身の意思によって処分可能なものとして受け取ったのかによって区別される。後者の場合、受領後に他者へ再配布したとしても、受領時点での買収罪の成立は妨げられない。
重要事実
被告人は、候補者Bのための投票および投票取りまとめの依頼を受け、その報酬および費用として現金合計20万円の供与を受けた。被告人は、この金員が選挙運動の報酬等であることを認識しながら受領した。その後、被告人は自らの意思により、受領した金員の中からさらに他の者に対して金員を供与した。弁護人は、当該金員は政治団体への政治資金であり、被告人個人が取得したものではない、あるいは他者への配布資金の中継ぎに過ぎないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は選挙運動の報酬および費用という名目で金員の供与を受けており、単なる配布資金の保管や伝達を依頼されたにとどまらない。事後的に他の者へ金員を配布した事実は認められるものの、それは一旦被告人が供与を受けた後、自己の意思に基づいて行われたものである。したがって、資金の拠出者から被告人への供与行為は、被告人に対する独立した買収行為として評価される。また、受領した金員が政治団体のための資金であるとの主張は、原判決の認定した事実(被告人個人への報酬・費用としての供与)に反し、採用できない。
結論
被告人が他の者から一旦金員の供与を受け、後に自己の意思によりその資金の中からさらに他の者に供与した事実は、被告人自身に対する買収罪の成立を肯定するものであり、原判決の判断は正当である。
実務上の射程
買収資金の「中継ぎ(単なる交付者)」と「受領者(被買収者)」の区別を示す射程を持つ。単に預かった資金を配る行為と、自己の判断で配る行為を分けることで、共犯関係の擬律や追徴の範囲を画定する際の判断基準となる。
事件番号: 昭和30(あ)1615 / 裁判年月日: 昭和30年11月8日 / 結論: 棄却
刑訴第三九二条は憲法第一三条、第七六条第三項に違反しない。