一 論旨前段は、第一審が所論Aの検察官に対する第三、四回供述調書を証拠調するにあたり、被告人に対し意見並に同意の有無を確かめた事跡がない、ということを前提として判例違反を主張する。しかし証拠調につき被告人の意見並に同意の有無を確かめることは、公判調書に記載することを必要とする事項ではないから、公判調書にその旨の記載がないからとて、論旨援用の判例のように被告人の意見並に同意の有無が確かめなかつたものということはできない。従つて論旨援用の判例は本件に適切でない。 二 論旨後段は、Aの検察官に対する第三、四回供述調書の内容が同人の公判期日における証言内容と大要同一であるという見解を前提として、右供述調書の取締は不当であり、これを証拠に援用した第一審判決も違法であり、適法な証拠調のない証拠を判決に引用した点においては所論援用の判例にも違背する、と主張する。しかし右Aの検察官に対する第三、四回供述調書の内容を同人の公判期日における証言内容と比較してみると、後者は、金員の援受は選挙事務所の費用等性正当の支出のためになされたものであつた、との趣意を含む点において前者と異なつているから、原判決が、刑訴三二一条一項二号によつて前者を証拠としたことには何等の違法もない。
一 証拠決定に関する意見の聴取は公判調書の必要的記載事項か ―判例と相反する判断をしたことにならない一事例 二 検察官作成の供述調書が証拠能力の認められる事例
刑訴法321条1項2号,刑訴法326条1項,刑訴法405条,刑訴規則44条,刑訴起訴190条2項
判旨
被告人から供与された金員を、受領者がさらに第三者へ供与した場合であっても、供与者については全額につき供与罪が成立する。また、公判供述に正当な支出であった等の趣旨が含まれ検察官面前調書と相反する場合、刑事訴訟法321条1項2号により同調書の証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
1. 供与した金員の一部を受領者がさらに第三者へ供与した場合、供与者に対し供与全額について罪が成立するか。2. 公判証言が検察官面前調書の内容と大要同一であっても、正当な支出であったとの弁解を含む場合に、刑事訴訟法321条1項2号の伝聞例外要件を満たすか。
規範
1. 買収資金と法定選挙費用を一括して供与した場合、その全額について買収等の罪が成立する。2. 検察官面前調書と公判期日における証言を比較し、公判証言に「正当な支出のための授受であった」等の新たな主張が含まれるなど、その内容に実質的な相違がある場合には、刑事訴訟法321条1項2号にいう「前の供述と相反するか又は実質的に異なるとき」に該当する。
重要事実
被告人は選挙運動に関し、Aに対して金25万円を供与した。Aはこのうち金6万2500円を他の選挙人等に供与したが、第一審は被告人に対し25万円全額の供与罪の成立を認めた。また、Aの検察官面前調書が証拠採用されたが、Aは公判において「金員の授受は選挙事務所の費用等、正当な支出のためになされた」と証言しており、検察官面前での供述内容と異なっていた。弁護人は、これらにつき法の適用誤りや証拠調手続の違法を主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人がAに25万円を供与した事実が認められる以上、その後Aがその一部を第三者に供与したとしても、被告人による供与罪の成立範囲には影響しない。2. Aの公判証言は、金員授受が正当な支出のためであったとする点で検察官面前調書の内容と異なっている。したがって、前の供述と「実質的に異なる」ものと認められ、同法321条1項2号に基づき証拠とすることに違法はない。なお、証拠調に際し被告人の意見・同意を確かめることは、公判調書の必須記載事項ではないため、記載がないことをもって手続違背とはいえない。
結論
被告人に25万円全額の供与罪が成立するとした判断、および検察官面前調書の証拠能力を認めた原判決は正当であり、本件上告を棄却する。
実務上の射程
選挙犯罪における買収資金の認定範囲(包括的供与)と、刑訴法321条1項2号の「実質的に異なる」の判断基準を示す。特に後者は、公判で被告人に有利な弁解が加わった場合に、検面調書を証拠採用する際の論拠として実務上重要である。
事件番号: 昭和29(あ)4095 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動者に対し、過去の選挙運動および将来の継続的な選挙運動に対する報酬として、その処分を一任して金員を供与する行為は、公職選挙法上の買収罪(報酬供与)を構成する。 第1 事案の概要:被告人Aは、被告人Bが過去に選挙運動に従事したこと、および今後も引き続き選挙運動に従事することに対する報酬という意…