判旨
弁護人による控訴趣意の撤回には被告人の同意を要するが、公判廷外での同意も有効であり、同意のない不適法な撤回があっても他の控訴趣意に対する判断によって実質的に判断が示されたといえる場合には、判決に影響を及ぼすべき判決遺脱とはならない。
問題の所在(論点)
被告人が公判期日に不出頭である場合における弁護人の控訴趣意撤回の有効性、及び撤回が不適法であった場合に判断遺脱の欠陥が直ちに破棄事由となるか。
規範
1. 弁護人が被告人との連名による控訴趣意書を撤回する場合、被告人の同意を要するが、当該同意は必ずしも公判廷で行われる必要はなく、公判期日前になされた同意も有効である。 2. 形式上、特定の控訴趣意に対する判断遺脱がある場合であっても、他の控訴趣意に対する判断によって実質的にその主張に対する判断が示されたと認められるときは、刑訴法411条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとはいえない。
重要事実
被告人A及びBの刑事事件において、弁護人は第1回公判期日にて、被告人連名提出の控訴趣意書を被告人両名の同意を得て撤回する旨を陳述した。しかし、当該期日に被告人Bは出頭していなかった。その後、原審は弁護人提出の別の控訴趣意書についてのみ判断を示し、撤回された連名控訴趣意書については判断を示さなかった。被告人側は、Bの不出頭を理由に同意の存在を否定し、判断遺脱があると主張して上告した。
あてはめ
1. 弁護人がBの同意を得て撤回した旨を陳述している以上、公判前に同意を得た可能性があり、Bの不出頭のみをもって直ちに同意がないと断定することはできない。 2. 仮にBの同意がなく撤回が不適法であったとしても、当該控訴趣意の内容は事実誤認の主張であり、弁護人が公判廷で陳述し、原審が判断を示した別の控訴趣意(論旨第一点)と実質的に同一の内容であった。 3. したがって、原判決は実質的に被告人の主張に対して判断を示したものと評価でき、著しく正義に反するとは認められない。
結論
控訴趣意の撤回は公判廷外の同意でも有効となり得る。また、実質的に判断がなされている以上、形式的な判断遺脱があっても原判決を破棄すべき事由には当たらないため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
弁護人の訴訟行為と被告人の意思の不一致が問題となる場面で、実質的な不利益の有無から破棄の必要性を判断する「著しく正義に反するか」の判断指標として機能する。答案上は、判断遺脱の主張に対する救済の限界を示す論拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)448 / 裁判年月日: 昭和29年5月21日 / 結論: 棄却
弁護人から公判期日延期の申請があつても、その申請の理由につき何等疏明もしない本件においては、原裁判所は、これを許さなければならないものではない。原裁判所は右申請を許さず当初指定した公判期日にその公判を開いたものであつて、その法廷において右申請を許さない旨の決定を宣したからといつてその決定を被告人並びに弁護人に通知する必…