広島高等検察庁松江支部検事々務取扱検察官検事甲が提出した控訴趣意書には「別紙昭和二十八年八月二十四日附鳥取地方検察庁検事乙作成に係る控訴趣意書の記載を援用する」として乙検事名義の「控訴趣意書」と題する書面を添付し、契印が施されてある。従つて右甲検事は乙検事作成の書面の記載内容をそのまま全面的に引用し、自己の控訴趣意書として提出したものと認められる。すなわち引用の文書は控訴趣意書と一体をなしており、趣意書のみによつて控訴趣意を知ることができるから、これを無効とすべき理由はない。
地方検察庁検事作成名義の控訴趣意書を高等検察庁検事作成名義の控訴趣意書に援用した場合の効力
刑訴法376条
判旨
控訴趣意書において他人の作成した書面を引用・添付した場合であっても、それが一体となって控訴趣意を明確に示している限り、有効な控訴趣意書として認められる。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法における控訴趣意書の記載に関し、他の文書の内容を全面的に引用し、かつ当該文書を添付して提出する手法が、適法な趣意書の提出として認められるか。
規範
控訴趣意書等の書面において、他の文書の内容を引用しながらその内容を示さず、当該趣意書のみでは不服の趣旨を了知できない場合は、適法な趣意書とは認められない。しかし、引用された文書が趣意書と一体をなし、その書面のみによって控訴趣旨を具体的に知り得る場合には、当該引用は有効であり、趣意書を無効とすべきではない。
重要事実
被告人Bに対する控訴審において、検察官が提出した控訴趣意書には「別紙検事作成に係る控訴趣意書の記載を援用する」との旨が記載され、実際に他職の検事が作成した「控訴趣意書」と題する書面が添付された上で契印が施されていた。弁護人は、このような他人の書面を引用した控訴趣意書は無効であると主張して上告した。
あてはめ
本件検察官が提出した書面は、他人が作成した書面を添付し契印を施すことで、その内容を全面的に引用し自己の控訴趣意書として提出したものと認められる。この場合、引用された別紙は控訴趣意書と実質的に一体をなしており、裁判所および相手方は当該趣意書のみによって具体的な控訴の理由を十分に把握することが可能である。したがって、形式上の不備はなく、有効な控訴趣意書としての要件を具備していると解される。
結論
他人の作成した書面を引用・添付した控訴趣意書であっても、一体性が認められ内容が特定できる限り有効であり、本件控訴趣意書を無効とする理由はない。
実務上の射程
書面の作成名義や形式に些末な不備(宛名の誤記や引用等)があっても、実質的に裁判所の受理や趣旨の理解に支障がない限り、訴訟行為の有効性を肯定する柔軟な判断を示している。答案上は、訴訟行為の有効性を判断する際の「目的的解釈」や「表示の理論」の裏付けとして活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)257 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 棄却
刑訴規則第二四六条は、適当と認めるときは、判決書に控訴趣意書に記載された事実を引用することができると規定しているだけで、特に判決書自体に控訴趣意書を添付することを明定していないのであるから、かかる場合における控訴趣意書は判決書の一部をなすものと解すべきでなく(昭和二八年(あ)二五〇二号、同年一〇月一日第一小法廷決定)、…