一 原判決の認定した本件事実によれば、被告人両名は判示会社工場次長A外四名の同会社幹部に対し、寄宿舎止宿工員は一応帰郷することを勧告することなどを含む会社の通告の撤回及び団体交渉の開催方を要求した際、原審相被告人B等と共同して、同会社構内バレーコートにおいて、徹宵十数時間にわたり引続き右A等の自由を拘束して不法に監禁し、また、被告人Cはさらに右相被告人B等と共同して、夜間同会社工場長D方の屋内に居住者の意思に反して侵入し、同所から退去を求められてもこれに応じなかつた目的達成のためにする正当行為であると認めることができないことは判例の趣旨に微し明らかである。註。引用の判例は次のものである。 二 (昭和二三年(れ)第一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決、集四巻一一号二二五七頁以下、昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決、集三巻六号七七二頁)
争議行為の正当性の限界 ―不法監禁、住居侵入罪の成立する場合―
旧労働組合法1条,刑法35条,刑法220条,刑法130条,憲法28条,憲法37条
判旨
労働基本権の保障は無制限ではなく、使用者側の自由意思を剥奪・抑圧する行為や暴行・脅迫、監禁等の刑罰法令に触れる行為は、労働組合法上の正当な行為として免責されない。
問題の所在(論点)
労働争議において行われた、多人数での長時間にわたる会社幹部の拘束(監禁)や住居侵入・不退去といった実力行使が、労働組合法第1条第2項(現行1条2項)にいう「正当な行為」として刑法上の違法性を阻却するか。
規範
憲法が保障する団体交渉権等の労働基本権は無制限なものではなく、他者の基本的人権との調和が必要である。労働組合法第1条第2項(刑法第35条)による正当行為としての免責は、同条第1項の目的達成のためにされた「正当な範囲内」の行為に限られる。具体的には、使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧するような行為や、刑法上の暴行罪、脅迫罪、監禁罪等に該当する実力行使は、労働争議の手段として正当なものとは認められない。
重要事実
被告人らは、会社幹部に対し通告の撤回および団体交渉の開催を要求した際、他の者と共同して、工場内のバレーコートにおいて徹宵10数時間にわたり会社幹部5名の自由を拘束し、不法に監禁した。また、被告人の一人は、夜間に工場長宅の屋内に居住者の意思に反して侵入し、退去要求に応じなかった。
あてはめ
本件における10数時間に及ぶ徹宵の自由拘束は、使用者側の自由意思を剥奪・抑圧する行為であり、刑法上の監禁罪に該当するものである。また、住居への侵入および不退去も、他者の私生活上の平穏を害するものである。これらの行為は、団体交渉の要求という目的があったとしても、手段の相当性を著しく欠き、労働基本権の保障の限界を超えている。したがって、労働組合法による正当行為の範囲を逸脱していると評価される。
結論
被告人らの行為は労働組合法上の正当な行為とは認められず、監禁罪、住居侵入罪、不退去罪が成立する。
実務上の射程
労働争議における正当性の限界(特に手段の相当性)を判断するリーディングケースの一つ。答案上は、労働基本権の行使が他者の人権や刑事法規と衝突する場合、「手段が相当といえるか」という規範のあてはめにおいて、身体的拘束や威圧の程度、時間の長さを指摘する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)3252 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合の団体交渉等の行為が正当化されるのは、労働組合法所定の目的を達成するためにした正当な行為に限られる。正当な限度を逸脱した暴力行為は、いかなる場合においても許されず、憲法28条による保障の対象外である。 第1 事案の概要:被告人らは、共産党の闘争方針の一環として本件行為に及んだ。第一審および…