一 傷害被告事件において被告人等はその勤務する工場工務係が工員に對し時間外勞働を強制したゝめこれに憤激し、同人を傷したものであると主張する場合、右時間外勞働強制の事實の有無を判示せず被告人等を處罰することは憲法第三七條第一項に違反しない。 二 憲法第二八條及び勞働組合法第一條(昭和二四年法律第一七四號に依る改正前のもの)は、特定工場の勞働組合員がその工場の工員たる身分を喪つた場合と雖も工場内に當然立入る權利を保障したものではない。 三 就業規則に基く解雇通知の効力は當該工場の勞働組合の承認の有無勞働基準法第二〇條所定の手續の履踐の有無、亦は勞働關係調整法第四〇條(昭和二四年法律第一七五號に依る改正前のもの)所定の勞働委員會の同意の有無に依つて消長を來すものでない。
一 憲法第三七條第一項に違反しない一事例 二 憲法第二八條及び勞働組合法第一條(昭和二四年法律第一七四號に依る改正前のもの)の法意 三 就業規則に基く解雇通知の効力
憲法37條1項,憲法28條,勞働基準法32條(昭和24年法律175號による改正前のもの),勞働基準法20條,勞働組合法1條(昭和24年法律175號による改正前のもの),勞働關係調整法40條(昭和24年法律175號による改正前のもの)
判旨
解雇された元工員や労働組合の書記であっても、工場の管理者が正当な理由に基づいて立ち入りを禁止した場所に故なく侵入し、又は退去しない行為は、住居侵入罪(又は不退去罪)を構成する。労働組合法や憲法28条は、工員でない者や組合関係者に対し、当然に工場内へ立ち入る権利を保障するものではない。
問題の所在(論点)
解雇された元工員および労働組合書記が、工場管理者の立ち入り禁止通告に反して工場内の寄宿事務所に立ち入る行為が、刑法130条の住居侵入罪(および不退去罪)における「故なく」侵入・退去しない場合に該当するか。また、組合活動としての正当性が認められるか。
規範
刑法130条の「故なく」とは、正当な理由がないことを意味する。工場の管理権者が、工員でない者や特定の外部者に対し、管理権に基づき特定の場所への立ち入りを禁止した場合には、その禁止に反する立ち入りや滞留を正当化する特段の事情(労働組合法上の正当な業務執行等)がない限り、不法侵入となる。労働組合員や書記という地位のみをもって、当然に管理者の意思に反して工場内に立ち入る権利が保障されるものではない。
重要事実
被告人B・C・Dは、会社から就業規則に基づき適法に解雇された元工員であり、被告人Gは労働組合の書記であった。工場長は、被告人らが解雇後も寄宿事務所等に宿泊し続けていたため、警察署長立ち会いのもと、労働組合事務所以外の場所への立ち入りを禁止する通告を行った。しかし、被告人らは禁止区域である寄宿事務所2階の室に侵入し、あるいは同所から退去しなかった。
あてはめ
まず、被告人B・C・Dは適法に解雇されており、解雇後は工員としての立ち入り権利を有しない。被告人Gも単なる組合書記であり、組合員の勤務地や寄宿舎へ常に自由に出入する権利はない。次に、本件の立ち入り禁止措置は、解雇後も宿泊を続ける等の事態に対処するための正当な管理権の行使であり、労働組合法や憲法28条に違反する不当な妨害とはいえない。さらに、侵入場所は通常の労働運動と必然的な関係があるとは認められない寄宿事務所の一室である。したがって、被告人らの行為には正当な理由がなく、「故なく」侵入・滞留したものと評価される。
結論
被告人らの行為は住居侵入罪および不退去罪を構成する。被告人らを処断した原判決に違法はない。
実務上の射程
労働紛争に伴う工場立ち入りに関するリーディングケース。解雇の効力が争われている場合であっても、管理権者が明確に立ち入りを禁止し、かつその場所が組合活動に不可欠でない(寄宿舎等)場合には、住居侵入罪が成立する可能性が高いことを示している。答案上は、管理権の帰属、禁止の通告の有無、立ち入りの目的・態様を検討し、正当業務行為といえるか否かの文脈で使用する。
事件番号: 昭和29(れ)14 / 裁判年月日: 昭和29年12月7日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定した本件事実によれば、被告人両名は判示会社工場次長A外四名の同会社幹部に対し、寄宿舎止宿工員は一応帰郷することを勧告することなどを含む会社の通告の撤回及び団体交渉の開催方を要求した際、原審相被告人B等と共同して、同会社構内バレーコートにおいて、徹宵十数時間にわたり引続き右A等の自由を拘束して不法に監禁し…
事件番号: 昭和31(あ)1639 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働者の団体行動権の行使であっても、暴行・脅迫や住居侵入等の犯罪行為に至る場合は、憲法28条による正当な範囲内にあるものとして免責されず、違法性が認められる。 第1 事案の概要:被告人らは、労働運動上の示威行為として、社長宅の敷地内に設置されていた障壁を取り外し、示威行進を続けながら前庭内の通路部…
事件番号: 昭和40(あ)399 / 裁判年月日: 昭和42年2月7日 / 結論: 破棄自判
一 特定郵便局事務室において、当日の窓口現金事務の終了後、やがて現金収納のために来る銀行便に間に合うように、同局局長が自ら現金の集計整理にたずさわつていた際、労働組合の役員らが右局長の制止にもかかわらず同事務室内への立入を強行した(判文参照)ときは、たとえそれが同局に労働条件に関する事項について法規や協約の違反その他取…