一 特定郵便局事務室において、当日の窓口現金事務の終了後、やがて現金収納のために来る銀行便に間に合うように、同局局長が自ら現金の集計整理にたずさわつていた際、労働組合の役員らが右局長の制止にもかかわらず同事務室内への立入を強行した(判文参照)ときは、たとえそれが同局に労働条件に関する事項について法規や協約の違反その他取扱上不備の点がないかどうか、不当労働行為がないかどうかなどについて調査点検をするいわゆる点検活動を実施するためであつても、住居侵入罪が成立する。 二 被告人らが前項のように郵便局事務室へ立ち入つたうえ、こもごも局長に対し「出勤簿を出せ」「身長を張つて来たんだ……」などと言いながら、その額を押し、腕を引張り、出勤簿を奪い取つて床に投げすてるなどして、共同して暴行・脅迫を加えたとの事実を本件行為の態様、動機、目的その他の情状(判文並びに原判文参照)に照らすと、被告人らを懲役三月の実刑に処することは、刑訴法第四一一条第二号に該当する(一、二審判決は、高刑集一八巻一号二四頁所載)。
一 住居侵入罪が成立するとされた事例 二 刑訴法第四一一条第二号に該当するとされた事例
憲法28条,刑法130条,暴力行為等処罰ニ関スル法律1条,刑訴法411条2号
判旨
労働組合員らによる郵便局事務室への立入行為について、点検活動という正当な目的があっても、管理者の拒否に合理的な理由があり、かつ立入が強行された場合には、住居侵入罪が成立する。
問題の所在(論点)
労働組合の点検活動を目的とする者が、郵便局長の拒絶を排して事務室に立ち入った行為につき、住居侵入罪(刑法130条前段)が成立するか。
規範
管理者の拒否に反して立ち入る行為が住居侵入罪を構成するか否かは、立ち入る側と拒否する側双方の具体的動機および行為の態様を相関的に考量して判断すべきである。労働基本権(憲法28条)に基づく正当な組合活動(点検活動等)の目的であっても、あらゆる場合に立入が許容されるわけではなく、業務上の支障と組合側の不利益を比較衡量し、管理者の拒否に正当な理由が認められる場合には、立入強行は違法となる。
重要事実
全逓役員である被告人らは、労働条件の点検活動および脱退組合員への威迫・嫌がらせを目的として、A郵便局の事務室に立ち入ろうとした。局長は、当時現金の集計整理中で銀行員の来局を数分後に控える急を要する状況であったため、「仕事中だから外で待ってくれ」と告げ、両手を広げて入室を阻止した。しかし被告人らは、局長の手を払い除け、その胸を突いて押し退けながら事務室内に強行入室した。
あてはめ
局長の拒絶は、現金集計という具体的・客観的状況に基づき、わずか数分間の延引を求める合理的理由のあるものであった。これに対し、被告人らの目的には威迫等の不当な動機が含まれており、点検が数十分遅れることによる不利益と比較しても、局長の拒絶は正当である。被告人らがこの拒絶を物理的な力で排して強行入室した行為は、態様として正当な範囲を逸脱しており、刑法上の保護に値しない。
結論
管理者の拒絶に合理的な理由がある以上、強行入室した被告人らの行為は正当な組合活動とは言えず、住居侵入罪が成立する。
実務上の射程
団結権の行使であっても、管理権を排斥できるのは必要かつ相当な範囲に限られる。特に「平穏な管理権の行使」と「組合活動の必要性」の比較衡量を示す判断枠組みとして、刑事上の住居侵入罪のみならず、民事上の施設管理権と組合活動の衝突場面でも活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)1290 / 裁判年月日: 昭和30年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働争議に伴う立入りであっても、解雇の有効性にかかわらず、侵入行為自体の態様が平穏を害するものであれば刑法130条前段の住居侵入罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人4名は、労働組合の活動の一環として特定の建物に立ち入った。被告人らは解雇の不当性を主張し、当該立入りが正当な業務行為等に該当すると…
事件番号: 昭和40(あ)2221 / 裁判年月日: 昭和42年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】国家公務員の団体交渉その他の団体行動であっても、暴力を伴う場合には、憲法28条が保障する正当な行為の限界を超え、刑事制裁を免れない。また、暴力行為により生じた混乱を収拾するための退去要求に従わない行為は、不退去罪(建造物侵入罪)を構成する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合員らと共に税務署に…
事件番号: 昭和42(あ)472 / 裁判年月日: 昭和43年7月12日 / 結論: 棄却
秋田県県政共闘会議を組織する労働組合の代表者である被告人甲、乙らが、秋田県知事公舎第二応接室において、知事に対し、昭和三六年度県予算に関し折衝した際、折衝が行き詰りとなつたため、知事は同公舎第一応接室において予算案の査定事務にとりかかつたところ、右労働組合の組合員である被告人丙、丁を含む組合員数十名は、右の経過をきいて…