秋田県県政共闘会議を組織する労働組合の代表者である被告人甲、乙らが、秋田県知事公舎第二応接室において、知事に対し、昭和三六年度県予算に関し折衝した際、折衝が行き詰りとなつたため、知事は同公舎第一応接室において予算案の査定事務にとりかかつたところ、右労働組合の組合員である被告人丙、丁を含む組合員数十名は、右の経過をきいて喧騒状態となり、床板を踏み鳴らし、労働歌を高唱し、右第一応接室の扉や壁をたたくなどし、被告人甲、乙は、右喧騒状態を制止することなく放置したまま数回にわたり第一応接室に入り、予算案査定中の知事に対し同じ主張を繰りかえしたため、予算案査定事務の進捗がはなはだしく妨害されたので、知事は事後の折衝に応ずることを拒否し、被告人らを含む組合員全員に退去を要求したという事実関係(判文参照)のもとにおいては、被告人らの行為は団体行動権行使の正当な限界を逸脱したものであり、知事が退去を要求したのは当然の措置であつて、これに応じなかつた被告人らの不退去の所為は違法性を阻却するものではない。
住居不退去罪につき違法性を阻却すべき事由が認められないとされた事例
刑法35条,刑法130条,労働組合法1条2項
判旨
地方公務員の団体交渉または交渉において、組合員が不当な威圧を背景に喧騒状態を招き、当局の正当な事務執行を著しく妨害した場合には、団体行動権の正当な限界を逸脱するものとして、不退去罪等の刑事責任が認められる。
問題の所在(論点)
地方公務員法上の職員団体(またはこれに準ずる組織)による交渉の際、多数の組合員による威圧的な座り込みや喧騒、および退去要求の無視が、憲法28条の団体行動権等の行使として刑法上の違法性を阻却するか。
規範
憲法28条が保障する団体交渉権や団体行動権も無制限ではなく、他者の権利や公の秩序との調和に基づく正当な限界を有する。交渉の態様が不当な威圧を背景とし、相手方の事務執行を著しく妨害するなど、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱する場合には、正当な行為として違法性が阻却されることはない。
事件番号: 昭和40(あ)2221 / 裁判年月日: 昭和42年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】国家公務員の団体交渉その他の団体行動であっても、暴力を伴う場合には、憲法28条が保障する正当な行為の限界を超え、刑事制裁を免れない。また、暴力行為により生じた混乱を収拾するための退去要求に従わない行為は、不退去罪(建造物侵入罪)を構成する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合員らと共に税務署に…
重要事実
秋田県職員組合等の組合員らが、県予算案に関する回答期日の前倒しを求めて知事公舎で折衝を行った際、知事との意見が対立した。組合員数十名は廊下に座り込み、「知事を倒せ」等の怒号や壁を叩くなどの喧騒状態で知事に威圧を加えた。知事は予算査定事務の妨害になるとして、数回にわたり退去を要求したが、被告人らはこれに応じず滞留を続けたほか、翌日には多数の組合員と共に実力で公舎内に押し入った。
あてはめ
組合員らの行為は、数十名による不当な威圧を背景に、知事の予算案査定という重要な事務執行を著しく妨害したものである。代表者はこの喧騒状態を制止せず放置したまま交渉を強行しようとしており、交渉の態様は著しく平静を欠く。したがって、たとえ固有の団体交渉権等を有する団体の行動であったとしても、団体行動権の正当な限界を逸脱したものと評価される。知事による退去要求は適法な管理権の行使であり、これに従わない不退去等の所為に正当性は認められない。
結論
被告人らの行為は正当な団体行動の範囲外であり、不退去罪および暴力行為等処罰法違反(集団的暴行等)の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
争議行為が制限されている公務員の団体交渉であっても、その実力行使の態様が「不当な威圧」や「業務の著しい妨害」に至る場合は刑事免責の対象外となることを示した事例である。答案上は、正当性の限界を判断する際の「態様の相当性」を論じる際の基準として引用できる。
事件番号: 昭和27(あ)11 / 裁判年月日: 昭和27年11月21日 / 結論: 棄却
日雇労働者を中心として組織された小樽市合同労働組合が、市長の諮問機関である同市失業対策委員会に対し日雇労働者の労働条件改善のための交渉をする行為は、労働組合法にいわゆる団体交渉行為にあたらない。
事件番号: 昭和42(あ)493 / 裁判年月日: 昭和42年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法上の正当な争議行為といえるためには、その手段・態様が社会通念上相当な範囲に留まる必要がある。本件では、被告人らの行為は正当性の限界を逸脱したものとして、刑事責任を免れないと判断された。 第1 事案の概要:判決文からは具体的な事実関係の詳細は不明であるが、労働組合員等である被告人らが、争議…
事件番号: 昭和41(あ)617 / 裁判年月日: 昭和42年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項の刑事免責は、労働組合の正当な行為についてのみ認められるものであり、暴力の行使に及ぶ行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱するため、刑事免責の規定は適用されない。 第1 事案の概要:被告人は、労働組合活動の一環として本件行為に及んだが、その態様は暴力の行使を伴うものであった。第一審お…
事件番号: 昭和33(あ)2214 / 裁判年月日: 昭和36年12月22日 / 結論: 棄却
被告人は判示A新聞社に対し退職金等の支払を要求するため、判示退職者同盟員二十数名とともに、スクラムを組み、ワツシヨイ、ワツシヨイと掛声をかけ、足を踏み鳴らしながら、同新聞社に入り、階下および階上の事務室などを集団で示威行進したというのである。かかる被告人の所為は、仮りに被告人等被解雇者に憲法二八条の保障する団体行動権が…