被告人は判示A新聞社に対し退職金等の支払を要求するため、判示退職者同盟員二十数名とともに、スクラムを組み、ワツシヨイ、ワツシヨイと掛声をかけ、足を踏み鳴らしながら、同新聞社に入り、階下および階上の事務室などを集団で示威行進したというのである。かかる被告人の所為は、仮りに被告人等被解雇者に憲法二八条の保障する団体行動権があつたとしても、社会通念上許容される限度を超えるものであつて、右団体行動権の正当な行使にあたるものとはいえないことは、当裁判所大法廷判例の趣旨に徴し明らかである(昭和二二年(れ)第三一九号、同二四年五月一八日宣告、刑集三巻六号七七二頁、同二三年(れ)第一〇四九号、同二五年一一月一五日宣告、刑集四巻一一号二二五七頁参照)
憲法第二八条の保障する団体行動権の正当な行使にあたらない事例。
憲法28条
判旨
労働者の団体行動権が認められる場合であっても、その行使は無制限ではなく、社会通念上許容される限度を超える態様の行為は正当な行使といえない。
問題の所在(論点)
労働者の団体行動として行われた集団的な示威行進が、刑法上の建造物侵入罪の成否において、憲法28条に基づく正当な団体行動権の行使として違法性が阻却されるか。
規範
憲法28条が保障する団体行動権の行使であっても、その態様が社会通念上許容される限度を超える場合には、権利の正当な行使とは認められず、刑事上の違法性が阻却されない。
重要事実
被告人は、A新聞社に対し退職金等の支払を要求するため、退職者同盟員20数名とともに、スクラムを組み、「ワッショイ、ワッショイ」と掛け声をかけ、足を踏み鳴らしながら、同社の階下および階上の事務室などを集団で示威行進した。この行為が建造物侵入罪に問われた事案である。
事件番号: 昭和31(あ)1639 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働者の団体行動権の行使であっても、暴行・脅迫や住居侵入等の犯罪行為に至る場合は、憲法28条による正当な範囲内にあるものとして免責されず、違法性が認められる。 第1 事案の概要:被告人らは、労働運動上の示威行為として、社長宅の敷地内に設置されていた障壁を取り外し、示威行進を続けながら前庭内の通路部…
あてはめ
本件における被告人らの行為は、20数名という多人数でスクラムを組み、大声での掛け声や足踏みを伴いながら、企業の事務室という業務の平穏が強く求められる場所を移動する集団的示威行進である。このような態様は、仮に被告人らに団体行動権が認められたとしても、社会通念上許容される限度を明らかに超えるものであると評価される。したがって、権利の正当な行使の範囲を逸脱している。
結論
被告人の行為は団体行動権の正当な行使とはいえず、建造物侵入罪が成立する。
実務上の射程
争議行為等の正当性の判断において、目的が正当であっても手段・態様が社会通念を逸脱すれば違法となることを示した。答案上は、刑法における正当行為(35条)の該当性を判断する際の「態様の相当性」を論じる文脈で、社会通念を基準とする判例として引用すべきである。
事件番号: 昭和25(あ)3057 / 裁判年月日: 昭和27年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表現の自由や団体行動権といえども公共の福祉による制限を受け、多衆の威力を用いて退去要求に応じず器物損壊や脅迫に至る行為は、憲法の保障の限界を逸脱し犯罪として処罰される。 第1 事案の概要:被告人らは、多衆を語らって税務署に押し掛けた。税務署長から再三にわたる退去要求を受けたにもかかわらずこれに応じ…
事件番号: 昭和38(あ)223 / 裁判年月日: 昭和39年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動権であっても、使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧するような行為は許容されない。労働組合法1条2項による刑罰阻却も正当な行為に限られ、暴行罪等に当たる行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として団体交渉等の団体行動を行った際、暴行罪や住…
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…
事件番号: 昭和25(あ)481 / 裁判年月日: 昭和27年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体交渉等の行為であっても、正当な目的の限度を逸脱した暴力行為は、労働組合法1条2項の趣旨に照らし、憲法28条の保障を受ける正当な行為とは認められない。したがって、かかる行為に対して暴力行為等処罰に関する法律を適用することは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員ま…