判旨
国家公務員の団体交渉その他の団体行動であっても、暴力を伴う場合には、憲法28条が保障する正当な行為の限界を超え、刑事制裁を免れない。また、暴力行為により生じた混乱を収拾するための退去要求に従わない行為は、不退去罪(建造物侵入罪)を構成する。
問題の所在(論点)
公務員の労働組合活動としての暴力行為、および管理者の退去要求に従わない行為が、憲法28条の保障する正当な団体交渉・団体行動として刑罰阻却されるか。
規範
国家公務員も原則として憲法28条の保障を受けるが、その団体行動が暴力を伴う場合には、同条にいう「正当な行為」の限界を超える。したがって、暴力行為そのものはもとより、その結果生じた混乱を収拾するために管理者(税務署長等)が行った適法な退去要求を拒否し滞留する行為も、正当な団体交渉権の行使として正当化されず、不退去罪等の刑事責任を負う。
重要事実
被告人らは、労働組合員らと共に税務署に押し掛け、勤務評定等について抗議するために暴力行為に及んだ(南税務署事件)。また、別の事件では、署長が提示した条件に反して団体交渉を継続しようとし、退去しようとする署長のネクタイを締め付け、身体を抑える等の暴行を加えた。さらに、署長が暴力行為による混乱収拾のために発した退去要求に従わず、署内に滞留し続けた(此花税務署事件)。
あてはめ
此花税務署事件において、被告人らは署長を囲んでネクタイを締め付け、服を引っ張る等の暴行を加えている。これは団体交渉の要求を目的としたものであっても、「暴力を伴う行為」に該当し、正当な限界を逸脱した暴力行為等処罰法違反といえる。また、かかる暴力により生じた署内の混乱を収拾するための署長の退去要求は、管理権に基づく適法な公権力の行使(または管理権行使)であり、これに従わず滞留した行為は建造物侵入罪(不退去)の構成要件に該当し、正当性も認められない。
結論
被告人らの行為は、憲法28条の正当な範囲を超えるため、暴力行為等処罰法違反および建造物侵入罪(不退去)が成立する。
事件番号: 昭和38(あ)223 / 裁判年月日: 昭和39年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動権であっても、使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧するような行為は許容されない。労働組合法1条2項による刑罰阻却も正当な行為に限られ、暴行罪等に当たる行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として団体交渉等の団体行動を行った際、暴行罪や住…
実務上の射程
労働基本権の行使であっても、暴力的手段が用いられた場合には一律に正当性を失うという判断基準を示している。特に公務員の争議行為が禁止されている文脈において、団体交渉の局面であっても実力行使がなされた場合の刑事責任の所在を明確にする際に用いる。
事件番号: 昭和42(あ)472 / 裁判年月日: 昭和43年7月12日 / 結論: 棄却
秋田県県政共闘会議を組織する労働組合の代表者である被告人甲、乙らが、秋田県知事公舎第二応接室において、知事に対し、昭和三六年度県予算に関し折衝した際、折衝が行き詰りとなつたため、知事は同公舎第一応接室において予算案の査定事務にとりかかつたところ、右労働組合の組合員である被告人丙、丁を含む組合員数十名は、右の経過をきいて…
事件番号: 昭和25(あ)481 / 裁判年月日: 昭和27年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体交渉等の行為であっても、正当な目的の限度を逸脱した暴力行為は、労働組合法1条2項の趣旨に照らし、憲法28条の保障を受ける正当な行為とは認められない。したがって、かかる行為に対して暴力行為等処罰に関する法律を適用することは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員ま…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…
事件番号: 昭和40(あ)1840 / 裁判年月日: 昭和41年12月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動の刑事免責は、正当な限界を超えないものに限り認められるものであり、暴力が行使された場合には正当性を欠くため、暴力行為等処罰法等の刑事罰の適用を受ける。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員として使用者側と団体交渉を行っていた際、使用者側が交渉を打ち切ろうとしたことに憤…