一 人を不法に逮捕し引き続き監禁した場合には、刑法第二二〇条第一項の一罪が成立する。 二 脅迫による監禁罪が成立するためには、その脅迫は被害者をして一定の場所から立ち去ることを得しめない程度のものでなければならない。 三 監禁罪は、暴行によると脅迫によるとを問わず、他人を一定の場所の外に出ることができなくした場合に成立し、目的の如何を問わない。 四 同時に同一場所において別個の人を監禁したときは、一個の行為で被害者の数に応じた数個の監禁の罪名に触れる。 五 出勤手当坑内五円、坑外三円の支給を受けることが労働組合側から見れば一種の債権であり、かつ、憲法ならびに労働組合法(昭和二〇年法律第五一号)施行前において右組合がこれを要求のため団体交渉をすること自体が正当であるとしても、その手段として為された所為が社会通念上許容される限度を超えたものであるときは、その行為は刑法第三五条の正当の行為とはいえない。 六 他人に対し権利を有するものが、その権利を実行する行為は、それが権利の範囲内であつて、かつその方法が社会通念上一般に許容されるものと認められる程度を超えない限り違法とはならない。 七 逮捕監禁の所為ありとして起訴され若しくは公判に付された場合に、裁判所が単に監禁の事実だけを認め、逮捕の事実は認められないとしたときは、逮捕の点は単純一罪の一部に過ぎないから、認められた監禁の事実だけを判決に判示し、これについて処断すれば足り、逮捕の点は判決主文において無罪を言渡すべきではなく、その理由中においても、必ずしも罪として認めない理由を判示する必要はない。 八 日本国民は、法律に定めた裁判官以外の裁判を受けることのないことは、憲法に保障されている国民の権利である。本件、労働組合員等大衆を裁判官とする人民裁判において、B、Cが敗訴の判決を受けたのに、これに服しなかつたため退去を許されず、又その判決の履行を、迫られたもので、被告人等に不法監禁罪は成立しないという所論は、法治国の精神に反し、憲法を無視する所論であつて採るを得ない。
一 人を逮捕し、引き続き監禁した場合の擬律 二 監禁罪が成立するために要する脅迫の程度 三 監禁の動機目的と監禁罪の成否 四 同時に同一場所に数人を監禁した行為と罪数 五 憲法ならびに労働組合法施行前の労働組合の団体交渉と刑法第三五条 六 権利を実行する行為が違法とならない要件 七 逮捕監禁の所為が単純一罪として起訴されているとき、監禁の事実のみを有罪とする場合の判示方 ―逮捕の点についても説示することを要するか― 八 いわゆる人民裁判による判決の履行のために監禁することは適法か
刑法220条,刑法54条1項,刑法35条,労働組合法(昭和20年法律51号)1条,憲法28条,憲法32条,旧刑訴法360条1項
判旨
労働組合による団体交渉や権利行使の手段としての行為であっても、当時の社会情勢を考慮し社会通念上一般に許容される限度を超える場合には、刑法35条の正当行為として違法性が阻却されることはない。不法監禁罪は、暴行・脅迫を問わず、他人を一定の場所から脱出不能にした場合に成立し、動機や目的が正当であってもその成立を妨げない。
問題の所在(論点)
労働争議や権利行使の一環として行われた監禁行為について、刑法35条の正当行為として違法性が阻却されるか。また、多衆の威力を背景とした退去阻止が不法監禁罪の構成要件を充足するか。
規範
権利を有する者がその権利を実行する行為、あるいは業務上の行為が刑法35条の正当行為として違法性を阻却されるためには、その行為が権利の範囲内であり、かつ、その方法が当時の社会情勢を考慮に入れた上で、社会通念上一般に許容される限度を超えないものでなければならない。また、不法監禁罪における「脅迫」は、被害者をして一定の場所から立ち去ることを困難にさせる程度のものであることを要する。
重要事実
労働組合員である被告人らは、出勤手当の支給等の要求(一種の債権行使)のため、会社の所長B及び副長Cを協和会館に連行した。被告人らは、罵声や怒号を上げる多衆の面前で、両名に対し要求の承諾を迫り、「目的貫徹までは帰さない」と告げて脱出を阻止した。その結果、Bを約21時間、Cを約33時間にわたり、睡眠も与えず同所に留まることを余儀なくさせた。本件は労働組合法施行前の事案であった。
あてはめ
被告人らは、B・Cが脱出しようとすると組合員らと共にこれを取り囲んで阻止しており、多衆の威力を利用して「その場を立ち去ることができない程度」の違法な脅迫を加えたといえる。また、手段の正当性について検討するに、長時間にわたり生理的に必要な睡眠すら与えず、罵声が飛び交う過酷な状況下で身体の自由を拘束し続ける行為は、たとえ要求内容自体が正当な債権行使の側面を有していたとしても、当時の社会情勢を鑑みても社会通念上の許容限度を著しく逸脱している。したがって、業務性や権利行使の目的があることを考慮しても、正当行為には当たらない。
結論
被告人らの行為は不法監禁罪の構成要件を充足し、かつ刑法35条の正当行為として違法性が阻却されることもないため、同罪が成立する。
実務上の射程
自力救済の禁止や正当行為の限界を示す重要判例である。答案上では、労働基本権や債権回収を大義名分とする実力行使がなされた際、目的の正当性だけでなく「手段の相当性(社会通念上の許容限度)」を判断基準として違法性を肯定する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)1724 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項ただし書きは、暴力の行使がいかなる場合であっても労働組合の正当な行為と解されないことを明示したものである。したがって、労働争議に伴う行為であっても、社会通念上許容される限度を超えた暴力の行使は刑法35条の正当業務行為に該当しない。 第1 事案の概要:被告人は、労働争議の過程におい…