原判決は、相手方が單に監禁の状態にあつたが故に昭和二〇年法律第五一號勞働組合法第一條第一項の適用の余地がないと判斷したものではなく諸般の事情を審理檢討した上、本件不法監禁行爲は、勞働爭議中に發生したことではあるが、爭議行爲自体に随伴して生じたものではなく、従つてその違法性を阻却するか否かについては、爭議行爲自体の正當性の有無を判斷する必要はないし、また本件行爲は、憲法勞働組合法等において保障確認されている團体交渉その他の團体行動權を行使すべき憲法所定の趣旨に反し、專ら團体交渉の目的を達する手段として判示のごとく使用者側の交渉委員及びその補助者を約三五時間に亘り工場内に閉じ込めて憲法の保障する身体の自由を拘束したものであるから、正當な團体交渉とは認めることができず、従つて前記條項の適用を認める余地がない旨を判斷したものである。その説示は要するに本件行爲を以て團体交渉權行使の正當な範圍を逸脱したものと認めた趣旨と解することができ、その認定は原判決の列舉する證據によつて首肯し得るところであるから、原判決には、審理不盡、理由不備の違法があるとは認められない。
團体交渉の目的達成の手段として使用者側を約三五時間に亘り閉じ込めた行爲と改正前の勞働組合法第一條第二項
昭和20年法律51號勞働組合1條2項,刑法35條,憲法28條
判旨
労働争議に伴う行為であっても、団体交渉の目的を達する手段として使用者側の交渉委員らを長時間工場内に閉じ込め身体の自由を拘束する不法監禁行為は、正当な団体交渉の範囲を逸脱しており、刑罰免責の対象とならない。
問題の所在(論点)
労働争議中に、団体交渉の目的を達成する手段として行われた監禁行為が、労働組合法1条2項にいう「正当な行為」として刑事上の違法性を阻却されるか。
規範
労働組合法1条2項(現行1条2項)による刑罰免責が認められるためには、当該行為が「正当な範囲」内の団体行動である必要がある。具体的には、憲法及び労働組合法が保障する団体交渉等の権利行使の趣旨に照らし、手段の相当性や目的の妥当性を総合的に判断し、正当な権利行使の範囲を逸脱している場合には、その違法性は阻却されない。
重要事実
労働組合員である被告人らは、労働争議において団体交渉を有利に進めるため、使用者側の交渉委員およびその補助者を工場内に監禁することを決意し、互いに意思を通じた。被告人らは、これら使用者側関係者を約35時間にわたり工場内に閉じ込め、身体の自由を拘束し続けた。この行為が、労働組合法上の正当な行為として刑罰免責を受けるかが争われた。
あてはめ
本件監禁行為は、労働争議の一環として行われたものではあるが、その実態は、使用者側関係者を約35時間という長時間にわたり工場内に閉じ込め、憲法が保障する身体の自由を著しく拘束するものである。このような手段は、憲法や労働組合法が保障する団体交渉権等の趣旨に反する。また、争議行為自体に必然的に随伴する行為とも認められず、専ら交渉相手に圧力をかけ、目的を達成するための実力行使としての性格が強い。したがって、正当な団体交渉の範囲を明らかに逸脱していると解される。
結論
本件不法監禁行為は正当な団体交渉とは認められず、労働組合法1条2項の適用を受ける余地はないため、有罪とする原判決は妥当である。
実務上の射程
労働基本権に基づく行為であっても、暴力行使や人身拘束といった身体の自由を侵害する強制的手段は、原則として正当性の範囲を逸脱し、刑事責任を免れないことを示す。答案では、労働組合法1条2項の正当性を判断する際、「手段の相当性」を欠く典型例として引用できる。
事件番号: 昭和31(あ)784 / 裁判年月日: 昭和32年3月28日 / 結論: 棄却
被告人等が組合員等大衆とともにA課長等の周囲にスクラムを組み交互に右大衆を指揮して、スクラムを組んでいるものを交替させたり、労働歌を高唱させたり、”ワツショ、ワツショ”と掛声をかけて同課長等の周囲を駈け廻らせたり、或は自らスクラムに参加したりして、気勢をあふり、約二時間五十分にわたり多衆の包囲と威圧により前記課長等の脱…