判旨
建造物侵入罪の成否において、解雇の有効性にかかわらず、立入行為の態様自体によって管理者の意思に反する「侵入」と認められる場合には、違法性が認められる。
問題の所在(論点)
労働争議に関連して解雇の効力を争っている者が、管理者の意思に反して建造物に立ち入った場合、解雇の有効性が建造物侵入罪(刑法130条前段)の成否に影響を及ぼすか。
規範
刑法130条前段の「侵入」とは、管理者の意思に反する立ち入りをいう。労働争議に伴う立ち入りであっても、解雇の当不当という私法上の地位の有無にかかわらず、その行為態様自体が管理者の意思に反し、平穏を害するものである場合には、同罪の構成要件に該当し違法性が認められる。
重要事実
被告人らは、勤務先から解雇されたが、その解雇の無効を主張して争っていた。被告人らは、解雇後の立ち入りが禁止されていたにもかかわらず、本件建造物へ立ち入った。第一審判決は、解雇の有効性にかかわらず、被告人らが行った立ち入りの「態様」そのものを重視して、建造物侵入罪の成立を認めた。被告人側は解雇の無効を理由に判決の訂正を申し立てた。
あてはめ
本件において、原判決が維持した第一審判決は、解雇の当不当という実体的な権利関係とは切り離し、被告人らによる侵入行為の具体的な「態様」に着目して違法性を認定している。このような認定手法は、建造物の管理権という保護法益に照らして相当である。被告人らは解雇の無効を主張するが、たとえ解雇が無効であったとしても、管理者の明示又は黙示の意思に反する態様での立ち入りがなされた以上、それは「侵入」に該当すると評価される。
結論
解雇の効力のいかんにかかわらず、立ち入り行為の態様自体によって管理者の意思に反すると認められる以上、建造物侵入罪が成立する。
実務上の射程
事件番号: 昭和59(す)11 / 裁判年月日: 昭和59年2月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所の上告棄却決定に対する判決訂正の申立は許されず、内容に誤りがあることを理由としない単なる本籍表示の訂正を求める異議の申立は、不適法として棄却される。 第1 事案の概要:被告人に対する住居侵入、建造物損壊被告事件につき、最高裁判所が上告棄却の決定を下した。これに対し、弁護人が「判決訂正の申…
本判決は、管理権者の意思を重視する立場を前提としつつ、労働法上の地位(解雇の効力)が直ちに刑事上の正当性を担保しないことを示した。答案上は、管理者の推定的意思を論じる際、行為態様の異常性が先行することを強調する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)6235 / 裁判年月日: 昭和29年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員らによる建造物侵入行為について、解雇の有効性等を争う背景があったとしても、その行為自体が不当なものであれば憲法28条等に基づく正当な行為とは認められず、建造物侵入罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人A、B、Cらは、Bに対する解雇の効力等を争う過程で、建物管理者の意思に反して建造物に侵…
事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一…