所論公訴事実の記載は被告人が法定の除外事由がないのに昭和二七年一〇月下旬頃前後四回に亘りAから各粳精米五升を五五〇円宛で買受けたという趣旨たること明白であつて、刑訴二五六条三項にいわゆる「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して」訴因を明示しているものということができる。
刑訴二五六条三項にいう訴因が明示されている場合にあたる事例 ―訴因明示の程度―
刑訴法256条3項
判旨
刑事訴訟法256条3項の定める訴因の特定は、できる限り日時、場所、方法を以て罪となるべき事実を明示することで足りる。本判決は、食糧管理法違反の事案につき、期間・回数・対象物・単価を明示した公訴事実の記載は訴因として十分に特定されていると判断した。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法256条3項にいう「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して」訴因を明示しているといえるか。また、本件の公訴事実の記載が訴因特定の要請を満たしているか。
規範
刑事訴訟法256条3項が訴因の特定を求めた趣旨は、裁判所の審判対象を画定し、被告人の防御の範囲を明確にすることにある。したがって、訴因は、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して明示されていれば、同条の要求を満たすものと解する。
重要事実
被告人が、法定の除外事由がないにもかかわらず、昭和27年10月下旬頃に前後4回にわたり、Aから粳精米(うるちせいまい)各5升を、1回につき550円で買い受けたという事実により食糧管理法違反で起訴された。弁護人は、訴因変更の手続きを経ることなく判決を下した点や、訴因の特定が不十分である点について判例違反等を主張して上告した。
事件番号: 昭和29(あ)2607 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数個の譲渡事実であっても、それらを一個の犯罪行為として認めることができる場合には、包括一罪として訴因を特定することが可能である。 第1 事案の概要:被告人は、特定の物品につき複数回にわたる譲渡行為を行った。検察官は、これら数個の譲渡事実を個別の犯罪としてではなく、一括して一個の犯罪行為として起訴し…
あてはめ
本件の公訴事実には、犯行の時期(昭和27年10月下旬頃)、回数(前後4回)、相手方(A)、対象物(粳精米5升)、および方法(550円での買受け)が具体的に記載されている。このような記載は、他の犯罪事実と識別し、被告人の防御を可能にする程度に罪となるべき事実を特定しているものといえる。したがって、第一審がこれら事実に吻合する証拠(売主Aの供述調書等)に基づき認定したことは、訴訟法上の手続として適法である。
結論
本件公訴事実は訴因として十分に特定されており、刑事訴訟法256条3項に違反しない。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
訴因の特定の程度に関する基本判例である。実務上は、他の犯罪事実との識別(識別機能)と被告人への告知(防御機能)が果たされているかを検討する際に、本件のように「概括的な日時・場所の記載であっても、他の要素と相まって事実が特定されていれば足りる」とする論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)444 / 裁判年月日: 昭和25年8月9日 / 結論: 棄却
一 統制額の超過販賣に關する物價統制令違反の罪は統制額を超えて賣買すれば成立するものであるから、原判示のように、被告人が統制額を超えて判示玄米又は白米を販賣した事實を判示すれば十分であつて、必らずしも所論のように超過額の幾何であるかまで明示する必要のないことは、既に當裁判所の判例(昭和二四年(れ)第一七〇號、昭和二四年…
事件番号: 昭和26(あ)4261 / 裁判年月日: 昭和28年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決において、証拠の標目を示す際は、数個の犯罪事実に対し数多の証拠を一括して掲げる方法であっても、判文と記録の照合により事実認定の根拠が明白であれば足りる。 第1 事案の概要:被告人に対し、数個の犯罪事実について有罪の言渡しがなされた。その際、裁判所は各犯罪事実ごとに個別的な証拠の標目を示すの…
事件番号: 昭和23(れ)116 / 裁判年月日: 昭和23年5月29日 / 結論: 棄却
職權をもつて原判決を調査するに、原判決はその法律適用の項において、「昭和二二年一〇月二六日法律第一二四號第一〇條」と記載しているのであるが、同法律は刑法の一部改正に關する法律であつて、同法には第一〇條という規定は存在しないのみならず、原判決が同法をここに引用したのは、本件被告人の公程價格を超えて、うるち精米を賣買した數…
事件番号: 昭和26(れ)1766 / 裁判年月日: 昭和26年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】価格等の統制額を超えて契約した等の場合に成立する価格違反の罪において、販売価格が具体的に表示され、その価格が告示の統制額を超えていることが明らかであれば、犯罪事実の説明として十分である。また、告示の規格に該当しない物品であっても「その他の」という包括的区分に該当し得る。 第1 事案の概要:被告人は…