判旨
数個の譲渡事実であっても、それらを一個の犯罪行為として認めることができる場合には、包括一罪として訴因を特定することが可能である。
問題の所在(論点)
数個の譲渡事実を包括して一個の犯罪事実として起訴した場合、訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)の要件を満たすか。また、それを包括一罪として扱うことの適否が問題となる。
規範
訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)に関して、数個の行為がなされた場合であっても、それらを社会通念上一個の犯罪行為と評価できる場合には、包括的に一罪として構成することが許容され、その範囲で訴因は特定されているものと解すべきである。
重要事実
被告人は、特定の物品につき複数回にわたる譲渡行為を行った。検察官は、これら数個の譲渡事実を個別の犯罪としてではなく、一括して一個の犯罪行為として起訴した。第一審および原審はこれを包括一罪と認定したが、弁護人は各譲渡事実は別個の犯罪(併合罪)であり、包括的な起訴は訴因の特定を欠くとして上告した。
あてはめ
本件における数個の譲渡事実は、その態様や時間的・場所的近接性等に照らし、法的に一個の犯罪行為として包括的に把握することが可能な状況にあったといえる。このように数個の事実を一個の犯罪行為と認めうる場合には、個々の譲渡の詳細を個別に分離して摘示せずとも、全体を一つの訴因として記載することで犯罪の範囲は十分に限定されており、訴因は特定されていると評価される。
結論
本件起訴事実は数個の譲渡事実を一個の犯罪行為と認められる場合に当たり、訴因は特定されている。したがって、これらを包括一罪とした原判決に違法はない。
実務上の射程
事件番号: 昭和29(あ)891 / 裁判年月日: 昭和29年7月1日 / 結論: 棄却
所論公訴事実の記載は被告人が法定の除外事由がないのに昭和二七年一〇月下旬頃前後四回に亘りAから各粳精米五升を五五〇円宛で買受けたという趣旨たること明白であつて、刑訴二五六条三項にいわゆる「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して」訴因を明示しているものということができる。
覚醒剤の譲渡や常習犯など、同種の行為が反復される事案において、包括一罪として起訴する際の訴因特定の許容範囲を示す判例である。被告人の防御権を不当に害さない範囲で、実務上の便宜(一括起訴)を認める基準として機能する。
事件番号: 昭和26(あ)4261 / 裁判年月日: 昭和28年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決において、証拠の標目を示す際は、数個の犯罪事実に対し数多の証拠を一括して掲げる方法であっても、判文と記録の照合により事実認定の根拠が明白であれば足りる。 第1 事案の概要:被告人に対し、数個の犯罪事実について有罪の言渡しがなされた。その際、裁判所は各犯罪事実ごとに個別的な証拠の標目を示すの…
事件番号: 昭和25(あ)2975 / 裁判年月日: 昭和27年10月14日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】食糧管理法違反と物価統制令違反が一所為数法の関係にある場合、一方が犯罪の証明が不十分であっても、他方の事実で有罪を宣告する以上、主文で個別に無罪を言い渡す必要はない。 第1 事案の概要:農業を営む被告人が、法定の除外事由がないにもかかわらず、昭和23年10月下旬に青年会支部長を介して会員らから未検…
事件番号: 昭和26(あ)4765 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】共犯者のうち一人が営利目的を有し、又は自己の業務に関している場合には、他の共犯者がそれらの主観的要件や地位を有しないときであっても、価格等統制令違反の責を免れない。 第1 事案の概要:被告人は、精米を統制額を超える代金で販売する目的で所持し、実際に販売したとして、食糧管理法違反および物価統制令違反…
事件番号: 昭和27(あ)1108 / 裁判年月日: 昭和27年11月21日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】食糧管理法違反(ヤミ物資の譲渡)と物価統制令違反(超過価格での売買)が、同一の譲渡行為により発生した場合には、刑法54条1項前段の観念的競合として処理される。複数の取引がなされた場合は、これらを併合罪として処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、法定の除外事由がないにもかかわらず、(1)粳…