職權をもつて原判決を調査するに、原判決はその法律適用の項において、「昭和二二年一〇月二六日法律第一二四號第一〇條」と記載しているのであるが、同法律は刑法の一部改正に關する法律であつて、同法には第一〇條という規定は存在しないのみならず、原判決が同法をここに引用したのは、本件被告人の公程價格を超えて、うるち精米を賣買した數個の行爲は、改正前刑法第五五條に該當することを判示せんがためであることは、判文上極めて明瞭であるから、右の記載は「昭和二二年一〇月二六日法律第一二四號附則第四項刑法第一〇條」の誤記であると解するのが相當である。したがつて、この瑕疵は、原判決を破毀するに足りないものと認める。
適用法條についての判文上の誤記
昭和22年法律124號附則4項,刑法55條
判旨
判決における証拠の評価および事実認定は、原審の専権に属する事項であり、明らかな論理的矛盾や証拠の欠如がない限り、上告理由とはならない。また、判決文中の明らかな法令引用の誤記は、判旨が明確であれば直ちに破棄事由にはならない。
問題の所在(論点)
原審による事実認定(買い受け・転売の事実)が証拠に基づかない不当なものであるか、および判決書における法令適用の誤記が破棄事由となるか。
規範
証拠の選択およびこれに基づく事実の認定は、裁判官の自由な心証に基づく専権事項(自由心証主義)であり、証拠の内容を総合的に考慮して事実を認定したプロセスに合理性が認められる限り、上告審がこれを覆すことはできない。また、判決書における法令適用の誤記であっても、判文全体の趣旨から本来適用すべき条項が明らかであり、結論に影響を及ぼさない場合は、原判決を破棄するに足りる瑕疵とは認められない。
重要事実
被告人は農業会の精米所に勤務中、複数の依頼者から精米を買い受け、これを公定価格を超える価格(ヤミ価格)で転売したとして食糧管理法違反等で起訴された。原審は、被告人の供述や司法警察官代理の聴取書を証拠として、「被告人が転売目的で買い受けた」事実を認定した。これに対し弁護人は、証拠上は「被告人は売買の媒介(取次)をした」に過ぎず、原判決は虚無の証拠に基づき犯罪事実を不当に拡大・認定したものであると主張し、さらに法令適用の項目に存在しない条文が引用されている点も違法であるとして上告した。
事件番号: 昭和26(れ)683 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
原判決が、判示第六の犯罪事実認定の証拠として、被告人の原審並に第一審公判における自白の外、Aに対する司法警察官の聴取書を掲げたのは、これを以て右被告人の自白を補強するためであつて、右聴取書におけるAの供述がその内容の全部に亘つて、右被告人の自白と符合するものではないとしても、少くとも、その外形的事実―例えば同人が自転車…
あてはめ
事実認定について、原判決が掲げている証拠資料(被告人の供述や関係者の聴取書等)を精査すれば、認定された犯罪事実は十分に導き出せる。弁護人の主張は証拠の一部を個別に捉えた評価に過ぎず、証拠全体を総合して認定を行った原審の判断に齟齬はない。したがって、これは原審の専権に属する事実認定を非難するものに留まり、適法な上告理由とはならない。また、法令適用の誤記については、文脈上「昭和二十二年法律第百二十四号附則第四項」の誤記であることは明白であり、被告人の行為が改正前刑法の連続犯(第五十五条)に該当することを示す趣旨も判文上明らかである。このような明白な誤記は、実質的な判断に影響を与えない軽微な瑕疵である。
結論
原判決に証拠によらない事実認定や理由齟齬の違法はなく、法令適用の誤記も破棄事由には当たらない。上告棄却。
実務上の射程
自由心証主義に基づく事実認定の専権性を再確認する事例。特に「取次(媒介)」か「自己による買受・転売」かの認定において、供述の断片のみならず全体的な証拠関係から実態を把握する原審の判断を尊重している。答案上は、証拠評価の合理性や判決書の誤記が結論に影響しない場合の処理の参考となる。
事件番号: 昭和25(れ)1587 / 裁判年月日: 昭和26年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧刑事訴訟法下における上告において、被告人の主張が単なる事実誤認及び量刑不当に帰する場合、当時の特別法(刑訴応急措置法)に基づき、適法な上告理由にはあたらない。 第1 事案の概要:被告人が原審の判断に対して不服を申し立て、上告を提起した。しかし、その主張の内容は、原判決の認定した事実が誤っていると…
事件番号: 昭和26(れ)973 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認や量刑不当の主張は、刑事訴訟法上の適法な上告理由に当たらない。また、職権による判決破棄事由が認められない限り、上告は棄却されるべきである。 第1 事案の概要:被告人Aおよび弁護人は、第一審・控訴審の判断に対し、事実誤認および量刑不当を理由として上告を申し立てた。弁護人は憲法違反も主張してい…
事件番号: 昭和26(れ)23 / 裁判年月日: 昭和26年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の上告趣意が単なる量刑不当の主張に帰する場合、それは刑法訴訟法上の適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が、原判決の量刑が不当であることを理由として最高裁判所に上告を申し立てた事案である。 第2 問題の所在(論点):被告人が主張する「量刑不当」が、上告審における適法な上告理…
事件番号: 昭和29(あ)891 / 裁判年月日: 昭和29年7月1日 / 結論: 棄却
所論公訴事実の記載は被告人が法定の除外事由がないのに昭和二七年一〇月下旬頃前後四回に亘りAから各粳精米五升を五五〇円宛で買受けたという趣旨たること明白であつて、刑訴二五六条三項にいわゆる「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して」訴因を明示しているものということができる。