原判決が、判示第六の犯罪事実認定の証拠として、被告人の原審並に第一審公判における自白の外、Aに対する司法警察官の聴取書を掲げたのは、これを以て右被告人の自白を補強するためであつて、右聴取書におけるAの供述がその内容の全部に亘つて、右被告人の自白と符合するものではないとしても、少くとも、その外形的事実―例えば同人が自転車一台の対価として被告人から精米一俵の交付を受けたことのある事実―において符合することは、右聴取書の記載に徴し明らかであつて、かかる供述が右被告人の自白の真実性を保障するに足ることは勿論であるから、これらを綜合して右犯罪事実を認定した原判決に所論のような相互に矛盾した証拠を引用した理由不備の違法ありとすることはできない。
被告人の自白と補強証拠の供述との間に多少のくいちがいのある場合と犯罪事実の認定
旧刑訴法336条,旧刑訴法337条,旧刑訴法360条1項,刑訴応急措置法10条3項,憲法383条3項
判旨
自白の補強証拠は、自白の内容と全部において符合する必要はなく、外形的・客観的事実において符合し、自白の真実性を保障するに足りるものであれば足りる。
問題の所在(論点)
自白を補強する証拠は、自白の内容とどの程度の範囲で合致している必要があるか。また、外形的な事実の一致のみで自白の真実性を保障するに足りるといえるか(憲法38条3項、刑訴法319条2項の補強証拠の範囲)。
規範
憲法38条3項及び刑訴法319条2項が求める補強証拠は、被告人の自白の全内容と一致することまでは不要である。自白にかかる事実のうち、少なくとも外形的事実において符合し、これによって自白の真実性を保障できるものであれば、補強証拠として十分である。
重要事実
被告人は自転車と精米を交換したという事案において、業務上の犯罪事実として起訴された。原審は、被告人の公判供述(自白)のほか、証人Aに対する司法警察官作成の聴取書を証拠として事実認定を行った。被告人側は、Aの供述内容が被告人の自白と全部において符合していないことから、補強証拠として不適法であると主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)194 / 裁判年月日: 昭和28年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の自白は、被告人自身の自白に対する補強証拠となり得る。共犯者の供述により被告人の自白の真実性が担保される限り、憲法38条3項の補強証拠として許容される。 第1 事案の概要:被告人らは、強制や拷問による自白であると主張し、また自白以外に有罪の証拠がないと主張して上告した。原審においては、被告人…
あてはめ
本件におけるAの聴取書は、その内容の全部が被告人の自白と符合するものではない。しかし、Aが自転車1台の対価として被告人から精米1俵の交付を受けたという「外形的事実」については、被告人の自白と符合している。このような外形的事実の一致は、被告人の自白が架空のものではなく真実であることを保障するに足りるものであると解される。したがって、当該聴取書を補強証拠として採用することに違法はない。
結論
自白と一部の外形的事実において符合する証拠は、自白の真実性を保障するに足りる補強証拠となる。したがって、本件の事実認定に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
補強証拠の程度(実質説の立場)を示す基本判例である。答案上は、補強証拠が「犯罪事実の全部」や「自白の細部」を証明する必要はなく、自白の真実性を担保できる客観的事実があれば足りることを論証する際に引用する。特に、自白と証拠が一部食い違っている事案でのあてはめに有用である。
事件番号: 昭和23(れ)116 / 裁判年月日: 昭和23年5月29日 / 結論: 棄却
職權をもつて原判決を調査するに、原判決はその法律適用の項において、「昭和二二年一〇月二六日法律第一二四號第一〇條」と記載しているのであるが、同法律は刑法の一部改正に關する法律であつて、同法には第一〇條という規定は存在しないのみならず、原判決が同法をここに引用したのは、本件被告人の公程價格を超えて、うるち精米を賣買した數…
事件番号: 昭和26(れ)546 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が契約書の一部条項のみを証拠として引用することは適法であり、自白の補強証拠は、他の客観的証拠や供述記載と総合して判示事実を肯定できるものであれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は業務上横領等の罪に問われた。原審は、検察官作成の聴取書や契約書の写し(第1条・第7条のみ引用)等の証拠に基づき、…
事件番号: 昭和26(あ)4261 / 裁判年月日: 昭和28年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決において、証拠の標目を示す際は、数個の犯罪事実に対し数多の証拠を一括して掲げる方法であっても、判文と記録の照合により事実認定の根拠が明白であれば足りる。 第1 事案の概要:被告人に対し、数個の犯罪事実について有罪の言渡しがなされた。その際、裁判所は各犯罪事実ごとに個別的な証拠の標目を示すの…
事件番号: 昭和26(あ)3454 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠については、実質的に自白の真実性を保障するに足りる証拠があれば足り、必ずしも犯罪事実の全部を直接証明するものである必要はない。 第1 事案の概要:被告人は複数の罪に問われ、検察官に対する供述調書において自白を行っていた。弁護人は、当該自白の任意性を争うとともに、第一審判決が挙げた証拠…