判旨
裁判所が契約書の一部条項のみを証拠として引用することは適法であり、自白の補強証拠は、他の客観的証拠や供述記載と総合して判示事実を肯定できるものであれば足りる。
問題の所在(論点)
1. 契約書の一部条項のみを証拠として引用し、事実認定を行うことは許されるか。 2. 証人の供述の摘録に一部誤りがある場合、直ちに判決に影響を及ぼす違法となるか。 3. 自白の補強証拠としてどのような範囲の証拠が必要とされるか。
規範
1. 証拠の取捨選択は事実審裁判所の裁量に属し、契約書のうち特定の条項(一部)のみを証拠として引用し事実認定の資料とすることも適法である。 2. 憲法38条3項および刑事訴訟法に基づく自白の補強証拠については、自白の内容と補強証拠、さらには他の供述記載等を総合して、主観・客観にわたる犯罪事実の全体を認定できる程度に備わっていれば足りる。
重要事実
被告人は業務上横領等の罪に問われた。原審は、検察官作成の聴取書や契約書の写し(第1条・第7条のみ引用)等の証拠に基づき、被告人の自白とあわせて有罪を認定した。これに対し弁護人は、契約書の一部のみを引用したことの違法性や、自白の補強証拠が不十分であること、さらには証人の供述の摘録に一部誤り(日時・回数の相違)があること等を理由に上告した。
あてはめ
1. 契約書全体が一体であるとしても、裁判所がその中の特定の条項のみを証拠として採用することは証拠選択の裁量権の範囲内である。本件では第1条と第7条の引用により聴取書の内容を補強しており、適法である。 2. 証人Bの供述の摘録において、日時や回数に関する記載に失当(誤り)がある点は認められる。しかし、数量、代金額、闇取引の認識、刑の宣告事実等の重要部分において原判決と同一趣旨の供述がなされており、かつ被告人の公判供述等と総合して一罪として認定されている以上、右の失当は結論に影響しない。 3. 原判決は被告人の自白だけでなく、原審公判廷における供述、および第三者の聴取書を総合しており、これらは自白を補完し判示事実を認定するに十分な補強証拠といえる。
結論
契約書の一部引用や、自白の補強証拠の認定、軽微な事実摘示の誤りに関する原審の判断に違法はなく、上告を棄却する。
事件番号: 昭和26(れ)683 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
原判決が、判示第六の犯罪事実認定の証拠として、被告人の原審並に第一審公判における自白の外、Aに対する司法警察官の聴取書を掲げたのは、これを以て右被告人の自白を補強するためであつて、右聴取書におけるAの供述がその内容の全部に亘つて、右被告人の自白と符合するものではないとしても、少くとも、その外形的事実―例えば同人が自転車…
実務上の射程
証拠選別の自由(自由心証主義)の具体例として、書面の一部採用が肯定されることを示す。また、自白の補強証拠の程度について、個別具体的な一致よりも、証拠全体を総合して実体的真実を担保できるかという実務的判断基準を確認する際に参照される。
事件番号: 昭和23(れ)116 / 裁判年月日: 昭和23年5月29日 / 結論: 棄却
職權をもつて原判決を調査するに、原判決はその法律適用の項において、「昭和二二年一〇月二六日法律第一二四號第一〇條」と記載しているのであるが、同法律は刑法の一部改正に關する法律であつて、同法には第一〇條という規定は存在しないのみならず、原判決が同法をここに引用したのは、本件被告人の公程價格を超えて、うるち精米を賣買した數…
事件番号: 昭和26(れ)2416 / 裁判年月日: 昭和27年5月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項にいう「自白」には、受訴裁判所の公判廷における自白は含まれないが、前審等の他の裁判所の公判廷における自白はこれに含まれるため、一審の自白のみで有罪を認定することは許されない。 第1 事案の概要:控訴審判決(原判決)は、第一審判決の事実摘示及び証拠を引用して有罪を認定した。その証拠には…
事件番号: 昭和26(れ)1927 / 裁判年月日: 昭和27年3月14日 / 結論: 棄却
物価統制令三条所定の「契約」とは、その物に関し処分権限ある者より適法に買受けたる場合のみに限らず、広く価格の統制ある物につき、そのものの、処分行為に関する契約を指すものであることは、同令の立法精神(同第一条参照)に照し疑のないところであるから、本件司厨長等に本件精米につき適法な処分権限のあるなしにかかわらず、苟しくもそ…
事件番号: 昭和26(れ)204 / 裁判年月日: 昭和26年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者である共同被告人の各自白は、互いに他の被告人の自白の補強証拠となり得る。また、裁判所の公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項にいう「自白」には当たらないため、補強証拠がなくともそれのみで有罪の証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人らは共犯関係にあり、刑事裁判においてそれぞれ…