物価統制令三条所定の「契約」とは、その物に関し処分権限ある者より適法に買受けたる場合のみに限らず、広く価格の統制ある物につき、そのものの、処分行為に関する契約を指すものであることは、同令の立法精神(同第一条参照)に照し疑のないところであるから、本件司厨長等に本件精米につき適法な処分権限のあるなしにかかわらず、苟しくもその統制価格を超過してこれが売買契約をするときは同令三三条違反の罪を構成することは多言を要しないところといわねばならない。
物価統制令第三条にいわゆる「契約」につき処分権限の要否と同令第三三条違反罪の成立
物価統制令1条,物価統制令3条,物価統制令33条
判旨
業務上保管中の物を所有者と同様に処分する行為は、たとえ他者から買い受ける形式であっても業務上横領罪を構成する。また、物価統制令にいう「契約」には、処分権限のない者から買い受ける場合も含まれる。
問題の所在(論点)
1. 処分権限のない者から統制価格を超えて買い受ける行為が物価統制令3条の「契約」に該当するか。 2. 自己が業務上占有する物を他者から買い受ける行為が業務上横領罪を構成するか。
規範
1. 物価統制令3条の「契約」とは、処分権限ある者から適法に買い受けた場合に限らず、価格統制のある物について広くその処分行為に関する契約を指す。 2. 業務上保管占有中の物について、所有者と同様の処分行為(買い受け等)を行うことは、刑法253条の業務上横領罪を構成する。
重要事実
被告人は、船舶運営会所有の精米を各司厨長等と共に業務上保管中(被告人が直接占有、司厨長等が間接占有)であった。被告人は、これら精米の一部を各司厨長等から統制額を超えて買い受けた。この行為が物価統制令違反および業務上横領罪に問われた。
事件番号: 昭和24(れ)1265 / 裁判年月日: 昭和25年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における「自己の占有」は、他人の財物を保管する原因となった契約関係の変動に関わらず、実質的に占有が継続していれば成立する。また、担保権者であっても法定の手続きによらずに担保物を任意処分することは、法令や正当な慣習がない限り不法領得の意思を阻害しない。 第1 事案の概要:被告人は、寄託契約また…
あてはめ
1. 物価統制令の立法精神に照らせば、適法な処分権限の有無にかかわらず、統制価格を超過した売買契約は同令違反を構成すると解すべきである。 2. 被告人は本件精米を業務上保管占有しており、これを買い受ける行為は、その時点で所有者でなければできないような処分行為をなしたといえる。したがって、委託の任務に背いて不法領得の意思を発現したものとして、業務上横領罪が成立する。
結論
被告人の行為は物価統制令違反および業務上横領罪を構成し、両罪は一個の行為で数個の罪名に触れるものとして観念的競合(刑法54条1項前段)となる。
実務上の射程
自己の占有する物について、形式上「買い受け」などの外形をとっても、それが領得の意思の発現と認められる限り横領罪が成立することを示す。また、公判廷における自白の証拠能力に関する判例法理(補強証拠不要論)の文脈でも参照される。
事件番号: 昭和25(れ)1947 / 裁判年月日: 昭和26年4月17日 / 結論: 棄却
統制額を超過してある物品を買い入れた罪とその物品を統制額を超過して販売した罪とは併合罪となる。
事件番号: 昭和26(れ)1504 / 裁判年月日: 昭和26年12月25日 / 結論: 棄却
右追公判請求書によれば検察官はA等において本件帆布を前記代金にて販売したときに横領行為が完成したものとして公訴を提起した趣旨と認められる。されば、横領罪を構成するものとして起訴された被告人A等の右販売行為が他面において物価統制令に違反するのであるから、刑法五四一条一項前段にいう一個の行為が他の罪名に触れる場合に当り、公…
事件番号: 昭和26(あ)3597 / 裁判年月日: 昭和28年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】委託を受けて受領した物を、委託の趣旨に反して処分した場合には、横領罪(刑法252条1項)を構成する。たとえ他から入手した同種の物で代替品を納入したとしても、当初の受託品を流用する行為自体が横領罪に当たる。 第1 事案の概要:被告人らは、D工業協同組合から綿糸の提供を受け、これを用いて布地(縞三綾)…
事件番号: 昭和26(れ)546 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が契約書の一部条項のみを証拠として引用することは適法であり、自白の補強証拠は、他の客観的証拠や供述記載と総合して判示事実を肯定できるものであれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は業務上横領等の罪に問われた。原審は、検察官作成の聴取書や契約書の写し(第1条・第7条のみ引用)等の証拠に基づき、…