右追公判請求書によれば検察官はA等において本件帆布を前記代金にて販売したときに横領行為が完成したものとして公訴を提起した趣旨と認められる。されば、横領罪を構成するものとして起訴された被告人A等の右販売行為が他面において物価統制令に違反するのであるから、刑法五四一条一項前段にいう一個の行為が他の罪名に触れる場合に当り、公訴事実の同一性を害しないものと認められる。それゆえ、原審が被告人A等を同令に違反するものとして処罰したからとて審判の請求を受けない事件につき判決したものということはできない。
横領罪と不当高価販売行為との想像的競合と公訴事実の同一性
物価統制令9条ノ2,刑法253条,刑法54条1項前段,旧刑訴法291条,旧刑訴法409条,旧刑訴法410条18号
判旨
業務上横領罪を構成する販売行為が、同時に物価統制令違反(不当高価販売)にも該当する場合、それらは刑法54条1項前段の「一個の行為が二個以上の罪名に触れるとき」(観念的競合)に当たる。この場合、一方の事実について公訴が提起されていれば、他方の罪名で処断しても公訴事実の同一性を害さず、審判の請求を受けない事件について判決したことにはならない。
問題の所在(論点)
業務上横領罪として起訴された販売行為が、同時に物価統制令違反(不当高価販売)を構成する場合、両罪はどのような罪数関係に立ち、起訴されていない罪名での処断は許されるか(公訴事実の同一性の範囲)。
規範
刑法54条1項前段の観念的競合とは、一個の身体的活動が複数の罪名の構成要件に該当する場合をいう。この関係にある数罪は、訴訟手続上も単一の事象として扱われ、公訴事実の同一性が認められるため、起訴状に記載された罪名と異なる罪名で処断しても、裁判所の義務に反するものではない。
重要事実
被告人Aは、連合会理事長として業務上保管中の帆布を、自己又は特殊関係者に適宜処分して領得しようと企図し、合計1,229反を勝手に出荷・販売して代金約177万余円を得た。検察官は、この販売行為をもって業務上横領罪が完成したとして公訴を提起したが、原審は当該販売行為が不当に高価な額での販売であり、物価統制令違反にも該当すると判断して同令に基づき処罰した。被告人側は、これが審判の請求を受けていない事件について判決した憲法・訴訟法違反であると主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)4516 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売却の交渉と売渡しの行為が不可分の一体をなす場合には、一箇の行為が二個の罪名に触れるものとして、刑法54条1項前段の観念的競合を認めるべきである。 第1 事案の概要:被告人が判示の綿糸について売却の交渉を行い、その後に実際に売渡したという事実があった。原判決は、この売却の交渉と売渡しという一連の所…
あてはめ
本件において、被告人らが業務上保管中の帆布を販売した行為は、横領罪の領得行為としての側面を持つと同時に、物価統制令が禁ずる不当高価販売という側面を併せ持っている。検察官は販売時に横領が完成したとして起訴しているため、この販売行為自体が公訴事実の核心である。したがって、一個の販売行為が両罪名に触れる観念的競合の関係にある以上、一方の罪名による起訴の効力は他方にも及び、公訴事実の同一性を害するものではない。よって、物価統制令違反として処断することは適法である。
結論
業務上横領と物価統制令違反は観念的競合の関係にあり、公訴事実の同一性が認められるため、原判決が物価統制令違反として処罰したことに違法はない。
実務上の射程
一個の行為で複数の結果が生じる事案において、検察官の構成した罪名とは異なる罪名で認定する場合の「公訴事実の同一性」の判断基準として活用できる。特に領得罪(横領・窃盗)の処分行為が行政罰(物価統制令等)に抵触する場合の罪数関係を整理する際に有用である。
事件番号: 昭和26(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和27年12月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人間に共謀が認められ、刑法60条の共同正犯が成立する場合、各被告人は他方の行為を含めた全体の犯罪事実について刑事責任を負う。 第1 事案の概要:被告人A及び被告人Bは、物価統制令に違反し、統制額を超える価格で取引を行ったとして起訴された。第一審判決は、両被告人の間に共謀の事実があることを認定し…
事件番号: 昭和24(れ)2381 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】盗品等関与罪における『譲受け』の際の価格が社会通念上不相当であるか否かの認定について、証拠に基づき認定された買受価格と統制額との対比により判断することは、証拠に基づかない認定には当たらない。 第1 事案の概要:被告人両名は、本件物品を買い受けた。原審は、当該物品の買受価格を証拠によって認定した上で…
事件番号: 昭和26(れ)1075 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の犯罪事実が時間的・場所的に独立し、それぞれが独立した犯意に基づいている場合には、それらは包括一罪や観念的競合ではなく、別個独立の犯罪(併合罪)として成立する。 第1 事案の概要:被告人が複数の罪に問われた事案において、原判決は「第二及び第三の事実」について、それぞれを独立した犯罪として認定し…