判旨
おとり捜査の適法性に関し、被告人が自己の自由意思によって犯罪を行ったのであれば、捜査官の働きかけがあったとしても犯意誘発型には当たらず適法である。また、被告人が日本語で十分に応答・防禦できる状態であれば、通訳人を付さない審判も憲法違反とはならない。
問題の所在(論点)
1. 捜査官の働きかけが犯意を誘発したものといえるか(おとり捜査の違憲性)。2. 日本語に不慣れな被告人に通訳人を付さない審理が憲法32条に違反するか。
規範
捜査官の働きかけにより犯行が行われた場合であっても、被告人が自己の自由意思によって当該犯行に及んだと認められ、捜査官によって犯意が誘発されたものでない場合には、その捜査は適法であり、それに基づく処罰は憲法13条に違反しない。また、通訳人の必要性については、被告人が日本語を理解し、自ら防禦を尽くせる実態があるか否かによって判断される。
重要事実
被告人が麻薬を譲渡した事案において、弁護人は、捜査官が犯意を誘発して検挙した「おとり捜査」であり憲法13条に違反すると主張した。また、被告人は日本語に通じないにもかかわらず通訳人を付さずに公判が行われたことが憲法32条(裁判を受ける権利)に違反するとも主張した。記録上、被告人には私選弁護人が付いており、被告人側から通訳の要請はなく、被告人は自ら日本語で裁判官の問いに答え、証人尋問の際には反対尋問まで行っていた。
あてはめ
1. 本件では、被告人は自己の自由意思によって麻薬を譲渡しており、犯意がないのに捜査官によって誘発されたものではないと認定できる。したがって、おとり捜査による違憲の主張はその前提を欠く。 2. 通訳人の点についても、被告人は第一審・第二審を通じて日本語で応答し、自ら反対尋問を行うなど、通訳を用いずとも十分に防禦をなし得る状態にあった。裁判所が通訳不要と判断したことに不合理な点はなく、防禦権の侵害は認められない。
結論
被告人は自由意思に基づき犯行に及んでおり、犯意誘発型のおとり捜査には当たらない。また、実質的な防禦が可能であった以上、通訳人を付さない審判も適法である。
実務上の射程
おとり捜査の適法性について「犯意誘発型」と「機会提供型」を区別する際の基礎的な判断枠組みとして活用できる。答案上は、被告人に元々犯意があったか、あるいは捜査官の働きかけが犯意を創出させたのかという「自由意思」の有無を重視する。また、通訳人の要否については、手続的権利の保障が実質的な防禦権の行使状況に依存することを示す素材となる。
事件番号: 昭和27(あ)5682 / 裁判年月日: 昭和29年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】いわゆるおとり捜査の適法性に関し、捜査官による誘発があったとしても、被告人が自由意思により犯行に及んだと認められる場合には、捜査官の誘発によるものとはいえず適法である。 第1 事案の概要:被告人B及びCは、物件の所持について犯意を有していたところ、捜査官憲から取引の働きかけを受けた。被告人らはこの…