判旨
おとり捜査等の捜査手法に関して、犯行の決意が捜査機関側(協力者を含む)の誘発によるものではなく、友人等の第三者の依頼によって形成された場合には、いわゆる「陥穽(かんせい)」の問題を生じる余地はない。
問題の所在(論点)
捜査機関側の働きかけがあったとされる事案において、被告人の犯行決意が友人の依頼に基づくものである場合、いわゆる「陥穽」に陥れたものとして違法な捜査(憲法・法令違反)にあたるか。
規範
おとり捜査が違法とされる「陥穽」の論議が適用されるのは、被告人の犯行決意が捜査機関(またはその協力者)の誘発によって生じた場合に限られる。したがって、被告人が自発的に、あるいは捜査機関とは無関係な第三者の働きかけによって犯行を決意・実行した場合には、当該捜査手法に違法性はない。
重要事実
被告人が本件犯行に関与するに至った経緯について、被告人の友人であるAからの依頼を受けて決意し、実行に移したという事実が認められた。一方で、被告人はB某ら(捜査機関側)の誘発によって犯行を決意したと主張して上告した。
あてはめ
原判決の認定によれば、被告人の決意実行の直接の原因は友人Aの依頼であり、B某らの誘発によるものではない。このように、犯行の動機が捜査機関側ではなく外部の第三者に由来する場合、被告人が主張するような「陥穽」の議論が入り込む余地はない。したがって、前提となる事実において捜査機関の違法な誘発は認められないと解される。
結論
本件捜査には違憲・法令違反の主張を容れる余地はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
おとり捜査の違法性判断において「犯意誘発型」か「機会提供型」かを区別する際の考慮要素として、犯意の形成が誰の働きかけによるものかを重視する実務上の端緒となる。答案上は、被告人に元々犯意があったか、あるいは捜査機関以外の第三者によって犯意が形成された場合には、違法な犯意誘発にあたらないとする論拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)2426 / 裁判年月日: 昭和29年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】おとり捜査において麻薬取締官の誘発によって犯意が形成された場合であっても、被告人の犯意が阻却されることはなく、直ちに違法性が阻却されるものではない。 第1 事案の概要:被告人が麻薬取締法違反(判決文からは詳細な罪名は不明)に問われた事案において、弁護人は、被告人の犯意が麻薬取締官の誘発によるもので…