判旨
捜査機関の誘惑によって犯意を生じ又は強化された者が犯罪を実行しても、その一事をもって構成要件該当性、違法性、責任は阻却されず、公訴提起の無効や公訴権消滅も生じない。
問題の所在(論点)
捜査機関によるいわゆる「おとり捜査」が行われた場合に、それによって誘発された犯罪の成立(構成要件・違法性・責任)が否定されるか、あるいは公訴提起が違法(刑訴法338条4号)となり却下されるべきか。
規範
他人の誘惑により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合において、その他人が捜査機関であったとしても、その一事をもって、犯罪構成要件該当性、責任性、若しくは違法性を阻却するものではなく、また公訴提起の手続規定に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものとすることもできない。
重要事実
被告人AおよびBは、犯罪を実行したが、その犯行に至る過程において他人の誘惑(おとり捜査的働きかけ)が存在した。弁護人は、その誘惑者が一私人ではなく捜査機関であったことを理由に、憲法違反や法令違反、あるいは公訴提起の無効等を主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人らは他人の誘惑によって犯意を生じまたは強化されて犯罪を実行している。たとえその誘惑者が捜査機関であったとしても、実行された行為自体が犯罪の構成要件に該当し、違法かつ有責である事実に変わりはない。したがって、実体法上の犯罪成立を否定する根拠にはならず、また刑事訴訟法上の公訴提起を無効とする事由にも当たらないと解される。
結論
被告人らの犯罪は成立し、公訴提起も適法であるため、上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は「おとり捜査」の適法性について極めて限定的な判断を示した初期の例である。実務上、犯意誘発型のおとり捜査が「違法な捜査」として公訴棄却等の対象となり得るかについては、後の最決平16・7・12等の規範を併せて検討する必要があるが、本判決は「捜査機関の関与のみでは直ちに無罪や公訴棄却にはならない」という原則を示す際に引用される。
事件番号: 昭和27(あ)5682 / 裁判年月日: 昭和29年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】いわゆるおとり捜査の適法性に関し、捜査官による誘発があったとしても、被告人が自由意思により犯行に及んだと認められる場合には、捜査官の誘発によるものとはいえず適法である。 第1 事案の概要:被告人B及びCは、物件の所持について犯意を有していたところ、捜査官憲から取引の働きかけを受けた。被告人らはこの…