いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性若しくは違法性を阻却するものではなく、また公訴提起の手続に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものではない。
いわゆる囮捜査はこれによつて犯意を誘発された者の犯罪の成否および訴訟手続に影響するか
麻薬取締法53条,刑法61条,刑法62条,刑法38条,刑法35条,刑訴法338条4号,刑訴法337条
判旨
おとり捜査が行われた場合であっても、その一事をもって被告人の犯罪構成要件該当性や責任、違法性が阻却されることはなく、公訴提起の手続規定違反や公訴権消滅も認められない。
問題の所在(論点)
捜査機関またはその依頼を受けた者による「おとり捜査」が行われた場合に、実体法上の犯罪成立が否定されるか、あるいは公訴棄却等の手続上の効果が生じるか。
規範
捜査機関が誘惑者となって犯罪を誘発した場合であっても、それだけで犯罪の成立(構成要件該当性、違法性、責任)を否定したり、訴訟条件の欠如(公訴提起手続の無効や公訴権の消滅)を導くことはできない。
重要事実
被告人Aは、麻薬取締官の協力者である「おとり」のCによって犯行を誘発されたと主張し、被告人Bも捜査機関側から犯行を誘発されたとして、おとり捜査の違法性を争った。しかし、原審によればAはCによって初めて犯行を誘発されたとはいえず、Bについても多量の麻薬(塩酸ジアセチルモルヒネ約676g)を入手しており、交渉の態様等から麻薬取引の常習性が認められた。
あてはめ
被告人Aについては、証拠に基づき「おとりによって初めて犯行を誘発されたものではない」と判断される。被告人Bについても、多量の麻薬入手や筆談による慎重な取引態様から、麻薬取引の常習者であることが窺われ、捜査機関によって犯行が創出されたとはいえない。仮に捜査機関が誘惑者であったとしても、そのことのみで被告人の犯罪構成要件該当性、責任、違法性が阻却されることはなく、公訴提起の手続規定に違反したり公訴権を消滅させたりするものでもない。
結論
被告人らの上告を棄却する。おとり捜査の存在を理由とした無罪判決や公訴棄却は認められない。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「犯意誘発型」であっても直ちに公訴棄却等を認めない厳格な立場を示している。現在の実務・判例(最決平16・7・12等)では、より緻密な「適法な範囲」の画定が行われているが、本判決は基本的スタンスとして「捜査の違法性が直ちに実体法上の犯罪成立を否定しない」という論理構成を検討する際の出発点となる。
事件番号: 昭和27(あ)4169 / 裁判年月日: 昭和28年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】おとり捜査が憲法違反にあたると主張された事案において、被告人が麻薬取締官の誘発によって犯行に至った事由が認められない以上、違憲の主張は前提を欠き理由がない。 第1 事案の概要:被告人が麻薬取締法違反(判決文からは詳細な構成要件は不明)に問われた事件において、麻薬取締官が関与するいわゆる「おとり捜査…