判旨
犯意を誘発された場合であっても、被告人がかねてから犯罪を承諾し、自ら進んで実行の機会を求めていたような事情がある場合には、違法な捜査には当たらず犯罪の成立は阻却されない。
問題の所在(論点)
捜査機関側の働きかけによって犯罪が実行された場合、いわゆる「おとり捜査」として違法となり、犯罪の成立(可罰性)が阻却されるか。特に、被告人に元々犯意があった場合の判断が問題となる。
規範
捜査機関またはその依頼を受けた者が、犯意のない者に働きかけて犯意を誘発し犯罪を実行させる「犯意誘発型」の捜査は原則として違法であるが、既に犯意を有している者に対して単に実行の機会を提供するにすぎない場合は、適法な捜査として犯罪の成立を阻却しない。
重要事実
被告人は、所持者Aから麻薬の売渡を依頼されてこれを承諾し、買主を捜していた。その最中に、たまたまB(捜査係官側)から注文を受け、その求めに応じて本件麻薬を譲渡しようとしたところを、係官に発見・検挙された。
あてはめ
被告人は、捜査機関側の接触がある前から、既にAより麻薬売渡の依頼を承諾しており、自ら積極的に買主を捜索していた。この事実に照らせば、被告人にはBの接触以前から確定的・継続的な犯意が存在していたといえる。Bによる注文は、既に形成されていた犯意に対し、単に実行の機会を提供したにすぎない。したがって、本件は犯意を不当に創出したものとは評価できず、捜査手法に違法な点は認められない。
結論
被告人に麻薬譲渡未遂罪が成立するのは当然であり、犯罪の成立を阻却する根拠はない。
実務上の射程
本判決は「おとり捜査」の適法性について、被告人の既存の犯意を重視する「犯意誘発型」と「機会提供型」の区別を示唆する。司法試験においては、捜査の必要性・相当性の文脈で、被告人の前歴や準備状況から犯意の有無を検討する際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和26(あ)3611 / 裁判年月日: 昭和29年11月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】おとり捜査等の捜査手法に関して、犯行の決意が捜査機関側(協力者を含む)の誘発によるものではなく、友人等の第三者の依頼によって形成された場合には、いわゆる「陥穽(かんせい)」の問題を生じる余地はない。 第1 事案の概要:被告人が本件犯行に関与するに至った経緯について、被告人の友人であるAからの依頼を…