判旨
おとり捜査のような捜査機関側の働きかけがあったとしても、被告人が捜査機関の詐術等により初めて犯意を生ぜしめられたという事実が認められない限り、違法な捜査とは評価されない。また、自首は必要的減軽事由ではないため、判決において自首の主張に対する判断を示さなくても刑事訴訟法335条2項の不尽には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 捜査機関側の働きかけ(おとり捜査)が違法な犯意誘発型に該当するか。 2. 自首の主張に対し判決で判断を示さないことが、刑訴法335条2項に違反するか。
規範
捜査の適法性に関し、被告人に犯意がないにもかかわらず、捜査機関側の詐術等によって初めて犯意を生じさせたといえる場合には違法となる余地がある。しかし、被告人に既に犯意がある場合や、捜査機関側の働きかけが犯意の誘致に直結しない場合には適法である。また、刑法42条1項の自首は裁量的減軽事由にすぎず、刑訴法335条2項にいう「法律上刑の減免の理由となる事実」には該当しない。
重要事実
被告人Aは占領軍官憲から麻薬捜査の権限を与えられていたが、被告人Cに対し詐術を用いて麻薬取引の犯行を行わせたのではないかと争われた。被告人C側は、全く犯意のなかった自分が被告人Aの詐術によって犯意を生ぜしめられたものであり、当該捜査は違憲・違法であると主張した。また、Cは自首の成立も主張していたが、原判決はこれについて判断を示さなかった。
あてはめ
1. 本件において、第一審及び原判決は、被告人Cが被告人Aの詐術によって初めて犯意を生ぜしめられたという事実を認定していない。したがって、犯意誘発型の違法な捜査があったという前提を欠く。 2. 刑法42条1項の自首は、裁判所の裁量により刑を減軽できる事由(任意的減軽)にすぎない。そのため、弁護人が自首を主張しても、それは刑訴法335条2項が判断を義務付ける「法律上刑の減免の理由となる事実」には当たらないから、これに判断を示さなくても違法ではない。
結論
被告人らの上告を棄却する。おとり捜査の違法性に関する主張は前提を欠き、自首に関する判断不尽の主張も理由がない。
実務上の射程
おとり捜査の適法性について、犯意誘発型か機会提供型かを区別する初期の基準を示している。また、判決書に記載すべき事項として、必要的減免事由と任意的減免事由(自首等)を区別する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)2559 / 裁判年月日: 昭和36年8月1日 / 結論: 棄却
論旨は、原判決の憲法一三条違反を主張するけれども、実質は、囮捜査によつて誘発された麻薬の所持を有罪としたことを避難するに帰する。しかし「他人の誘発により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、わが刑事法上その誘惑者が場合によつては教唆犯又は従犯として責を負うことのあるのは格別、その他人である誘惑者が一私…