所論第一は、要するに捜査当局が犯人にあらざるものに詐術を以て強いて犯罪を行わしめこれを逮捕するがごときは個人の人権の侵害で憲法一三条に違反するというのである。しかし、本件被告人が捜査当局から詐術を以て本件犯罪を強いて誘発された事実を認むべき証拠がないから(被告人は、所論Aより相談を持ちかけられる前既に友人亡Bから本件麻薬の売却方を依頼されていたことは論旨も認めるところである。)所論は、その前提を欠くものであつて採用できない。
憲法違反の主張がその前提を欠く場合 −詐術を用いて犯行を誘発せしめたとの主張−
憲法13条,刑法61条,刑法62条,麻薬取締規則(昭和21年厚生省第25号)23条
判旨
おとり捜査の適法性につき、捜査当局が犯人でない者に対して詐術を用いて犯罪を強いて誘発した事案でない限り、憲法13条等に違反する違法な捜査には当たらない。
問題の所在(論点)
捜査当局側が働きかけを行って犯罪を実行させる「おとり捜査」が、個人の尊重(憲法13条)等に照らし、違法な捜査として許容されないのではないか。
規範
捜査当局が犯人にあらざるものに対し、詐術を以て強いて犯罪を行わしめ、これを逮捕するような事態が生じていない限り、おとり捜査を直ちに違憲・違法と解することはできない。
重要事実
被告人は、捜査協力者であるCから麻薬取引の相談を持ちかけられる以前に、既に亡友人Bから本件麻薬の売却を依頼されていた。被告人は、当局側の働きかけ(誘惑行為)を受ける前から既に犯罪を行う意思を形成しており、その機会を利用して犯行に及んだものである。
あてはめ
本件では、被告人は捜査側の働きかけがある以前から麻薬売却の依頼を受けており、犯意が捜査機関側によって創出されたとは認められない。したがって、「詐術を以て強いて犯罪を誘発」したという事実は認められず、憲法に抵触するような違法な誘惑行為があったとはいえない。
結論
本件おとり捜査は適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、おとり捜査の適法性に関する初期の判断であり、「犯意誘発型」の限界を示唆したものである。実務上は、犯意を既に有している者に対して機会を提供する「機会提供型」であれば適法とされる傾向にあり、本件はその区別の端緒として、答案上は犯意形成の前後関係を検討する際の根拠として用いることができる。
事件番号: 昭和28(あ)3699 / 裁判年月日: 昭和29年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】おとり捜査のような捜査機関側の働きかけがあったとしても、被告人が捜査機関の詐術等により初めて犯意を生ぜしめられたという事実が認められない限り、違法な捜査とは評価されない。また、自首は必要的減軽事由ではないため、判決において自首の主張に対する判断を示さなくても刑事訴訟法335条2項の不尽には当たらな…