判旨
起訴状に検察官の適式な訂正印等がない加筆修正は無効であり、裁判所が当該修正後の事実に即して自白の有無を判断し、異なる態様の横領事実を認定することは採証法則に違反し得るが、本件では実質的な法令違反の主張に留まり上告理由には当たらない。
問題の所在(論点)
検察官による適式な訂正手続を経ていない起訴状の加筆修正の効力、および「着服」の自白のみがある場合に「費消」の事実を認定することの適否(採証法則違反の成否)。
規範
起訴状の記載内容の変更は、権限ある検察官による適式かつ真正な訂正手続(押印や欄外への加除字数の記載等)がなされていることを要する。裁判所が被告人の自白の対象(訴因)を画定するにあたっては、適式に作成された起訴状の文言を基準とすべきであり、自白した罪の態様(着服)と認定された罪の態様(費消)が異なる場合には、採証法則違反の疑いが生じ得る。
重要事実
被告人は会社が所有する自動二輪車の販売代金を業務上保管中、これを自己の用途に着服横領したとして起訴された。第一審の公判廷で被告人は「公訴事実の通り間違いありません」と自供した。しかし、起訴状には「着服」の文字を括弧で括り「費消して」という文字を挿入する鉛筆書きの修正があったが、これには検察官の押印も欄外記載もなかった。第一審判決は、この鉛筆書きの修正を前提としたかのように、「(着服)費消して」横領したとの事実を認定した。これに対し、被告人側は証拠のない事実認定であるとして上告した。
あてはめ
本件起訴状の「費消して」等の挿入は、黒鉛筆によるものであり、検事の押印や欄外の字数記載もないため、適式な訂正とは認められない。したがって、公訴事実は依然として「着服横領」である。被告人の自白は「公訴事実の通り」というものであり、それは「着服」を認める趣旨と解される。第一審判決が認定した「(着服)費消して」という事実は、文面から「費消」を主とする趣旨と解されるため、着服の自白のみから態様の異なる費消の事実を認定した点において、採証法則違反の非難を免れない。
結論
第一審判決の採証法則違反等の点は、実質において単なる法令違反を主張するものに過ぎず、憲法違反等の適法な上告理由には当たらないため、上告は棄却される。
実務上の射程
訴因の特定や自白の対象を検討する際、起訴状の形式的な完成度(訂正手続の適法性)が重要であることを示唆している。答案上は、被告人の自白がどの範囲の事実に及んでいるか(自白の客観的範囲)を確定する際、有効な訴因の記載内容を厳格に解釈する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1859 / 裁判年月日: 昭和27年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決が認定した費消金額の合計が、起訴状に記載された費消金額の範囲内である場合には、判決の基礎となる事実に不当な差異はなく、憲法違反や刑訴法411条の適用事由にはあたらない。 第1 事案の概要:被告人が公金等を費消したとして起訴された事案において、第一審判決は被告人の費消事実を認定した。これに…