判旨
被告人および弁護人が証人尋問の期日を事前に告知され、反対尋問の機会を与えられていたにもかかわらず、自ら立ち会わなかった場合には、憲法37条2項の対審権(証人審問権)を侵害したことにはならない。
問題の所在(論点)
被告人・弁護人が立ち会わないまま実施された受命裁判官による証人尋問が、被告人に「すべての証人に対して審問する機会」を保障する憲法37条2項に違反するか。
規範
被告人および弁護人に対し、法廷外における証人尋問に際して反対尋問の機会が適法に与えられていたのであれば、被告人らがその機会を自ら放棄して立ち会わなかったとしても、憲法の保障する証人審問権を侵害する違法は認められない。
重要事実
被告人が出頭した第一審公判期日において、裁判長は弁護人が申請した証人Aの採用を決定し、受命裁判官が後日、熊本地方裁判所において証人尋問を行う旨を宣示した。指定された期日に受命裁判官による尋問が実施されたが、被告人および弁護人は当該尋問に立ち会わなかった。その後、被告人側はこれが憲法違反であるとして上告した。
あてはめ
記録によれば、被告人および弁護人は証人Aの尋問期日について事前に告知を受けており、反対尋問の機会を付与されていたといえる。それにもかかわらず、自らの意思で当該尋問に立ち会わなかったのであるから、手続上の保障は尽くされている。また、原判決が維持した第一審判決は、そもそも当該尋問調書を証拠として採用していないため、被告人に実質的な不利益も生じていない。
結論
被告人らに反対尋問の機会が与えられていた以上、その不履行は自らの責任に帰すべきものであり、憲法違反には当たらない。
実務上の射程
刑事訴訟法157条から159条に規定される証人尋問の立ち会い権および反対尋問権の行使に関し、機会の付与があれば足り、実際の行使(出席)の有無は権利放棄の問題として処理できることを示す。実務上は、期日召喚等の適法な手続が行われていたかどうかが判断の分かれ目となる。
事件番号: 昭和28(あ)4938 / 裁判年月日: 昭和29年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人および弁護人が公判廷に在席し、実際に弁護人による反対尋問が行われた場合には、憲法37条2項の証人尋問権(反対尋問の機会)は十分に保障されていると判断した。 第1 事案の概要:被告人が起訴された刑事事件において、第一審の公判期日に3名の証人が出廷した。当該公判廷には被告人およびその弁護人がとも…
事件番号: 昭和31(あ)4524 / 裁判年月日: 昭和32年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第1回公判期日前に行われる裁判官による証人尋問(刑訴法228条1項)において、被告人側の立会権は保障されるものの、被告人自身に代わり弁護人が立ち会い反対尋問を行っている場合には、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は放火同未遂の罪で起訴された。第1回公判期日前に、検察官の請求によ…
事件番号: 昭和50(あ)611 / 裁判年月日: 昭和50年10月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が証人尋問の請求を却下することは、特段の事情がない限り裁判所の裁量に属する事項であり、直ちに憲法37条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは、刑事裁判の控訴審において特定の証人尋問を請求したが、原審(控訴審)は当該請求を却下した。これに対し被告人側は、証人尋問の却下は…