判旨
本件は、上告理由が事実誤認や量刑不当にすぎず、刑事訴訟法405条所定の上告理由に当たらないとして、上告を棄却した事例である。判旨は、被告人に代金一部支払の意思があったとする主張を、事実審の認定に基づかない独自の主張として退けている。
問題の所在(論点)
事実審で認定されていない支払意思の存在を前提とした主張や、量刑不当等の主張が、刑事訴訟法405条の上告理由に該当するか。また、職権による破棄事由(411条)が認められるか。
規範
最高裁判所に対する上告は、刑事訴訟法405条各号に掲げられた事由(憲法違反、判例違反)がある場合に限り認められる。事実誤認、単なる法令違反、量刑不当、および再審事由の存在は、同条の上告理由を構成しない。ただし、同法411条により、判決に影響を及ぼすべき著しい事実誤認等があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合には、職権で判決を破棄することができる。
重要事実
被告人が代金の支払意思・能力がないにもかかわらず商品を騙し取ったとされる詐欺事件(推認)において、弁護人は、被告人が代金の一部を支払う意思を有していたと主張し、原判決の事実認定に誤りがあると訴えた。また、訴訟法違反、再審請求事由の存在、および量刑不当を理由に上告を申し立てた。
あてはめ
弁護人の主張する「代金の一部の支払意思」は、事実審において認定されていない事実を前提とするものであり、その実体は単なる事実誤認の主張にすぎない。また、訴訟法違反、再審事由、量刑不当の各主張も、いずれも法405条が定める限定的な上告理由(憲法違反・判例違反)には該当しない。さらに、記録を精査しても、法411条を適用して職権破棄すべきほどの著しい事実誤認や正義に反する事態は認められない。
結論
上告理由はいずれも刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないため、同法414条、386条1項3号により上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験の答案上は、上告理由の限定性(405条)と、例外的な職権破棄事由(411条)の区別を論じる際の確認例となる。本件のように事実認定の当否を争う主張は、原則として適法な上告理由にならないことを示す一例である。ただし、本決定自体は極めて簡短な棄却決定であるため、具体的な規範定立よりも手続的な帰結の確認に資する。
事件番号: 昭和26(れ)737 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法405条の規定に基づき、事実誤認および量刑不当の主張は上告理由にあたらないとする原則を再確認し、職権調査の必要性も認められない場合には上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:本件の上告人は、原判決に対して事実誤認および量刑不当を主張して上告を申し立てた。事件の具体的な内容(犯罪事実等…