判旨
供述者の不可分的供述の一部を、供述全体の趣旨と異なる意味において事実認定の資料とすることは許されないが、全体としての趣旨を損なわない範囲で供述の一部を証拠として採用することは適法である。
問題の所在(論点)
自由心証主義(刑事訴訟法318条)のもとで、供述の一部を証拠として採用することが「供述の不可分性」に反し、事実誤認や判例違反を招くか否か。
規範
事実認定において供述証拠を用いる際、供述者の不可分的供述の一部を分離して、その供述全体の趣旨と異なる意味において事実認定の資料とすることは許されない。
重要事実
被告人がAに対し、昭和27年9月29日頃に金2000円を供与したという事実について、第一審及び原審が供述証拠に基づき認定した。これに対し弁護人は、供述の一部を捉えて供述者の趣旨とは異なる事実を認定したものであり、供述の不可分性に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原判決及び第一審判決の内容を検討すると、供述者の不可分的供述の一部を単に分離し、供述全体の趣旨と異なる意味で事実認定の資料とした事実は認められない。判示された日時(昭和27年9月29日頃)等の事実は、証拠との対照から合理的に導き出される範囲内のものである。したがって、供述の本来の趣旨を歪めた事実認定とはいえず、弁護人の主張は単なる事実誤認の主張にすぎない。
結論
供述の不可分性を害するような不当な事実認定は認められないため、判例違反はなく、本件上告を棄却する。
実務上の射程
供述の一部採用の限界を示す判例である。答案上は、供述の一部のみを自白として採用したり、供述の文脈を無視して一部を切り出し、供述者の意図に反する事実を認定した場合には、自由心証主義の逸脱や採証法則違反となることを論じる際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和28(あ)5251 / 裁判年月日: 昭和29年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審で主張せず原判決が判断を示していない事項についての判例違反の主張は、適法な上告理由とはならず、また、事実誤認が明白であっても刑訴法411条を適用すべき特段の事情がない限り上告は棄却される。 第1 事案の概要:被告人Aは、昭和27年10月21日にBに対して金員を供与した罪に問われた。弁護人は上…