判旨
供述調書の一部を証拠として引用することは、他の証拠と照らし合わせ、かつ当該引用によって不可分な供述から分離し全体の趣旨を変更したと認められない限り、許容される。
問題の所在(論点)
供述調書の一部を抽出して証拠とすることが、供述の不可分性に反し採証法則違反となるか。また、調書の謄本を証拠として用いる際の適法性が問題となる。
規範
供述調書の証拠採用において、調書の一部のみを引用して事実認定の基礎とすることは、それが不可分な一体の供述を不当に分離し、供述全体の趣旨を歪めるものでない限り、採証法則に反しない。
重要事実
被告人が選挙犯罪に関与したとされる事案において、原判決は共犯者Aの検察官面前供述調書(謄本)の一部を証拠として引用し、事実を認定した。これに対し弁護側は、不可分な供述を分離して一部のみを証拠とした点や、証人の意見供述を証拠とした点、さらに証拠調請求の対象が謄本であるのに原本と取り違えている点などを理由として、採証法則違反や判例違反を主張して上告した。
あてはめ
まず、原判決がAの調書の一部を引用したのは事実であるが、他の挙示された証拠と照合すれば、その一部のみに依拠して事実を認定したのではないことが明らかである。また、調書全体を精読しても、引用箇所が不可分な供述から分離されて全体の趣旨を変更したとは到底認められない。次に、証拠調請求の対象については、公判調書の記載から検察官が謄本を請求し、被告人側が同意した事実は明白であり、原判決が「供述調書」と表記したのは「謄本」の脱落に過ぎない。さらに、証拠同意がある以上、刑訴法321条1項2号の要件を満たすものとして適法に証拠採用されている。
結論
本件の供述調書の一部引用は、供述全体の趣旨を歪めるものではなく、他の証拠との併用もなされているため、採証法則に違反しない。したがって、原判決の事実認定に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
答案上は、伝聞証拠の証拠採用において「一部採用」が問題となる場面で活用できる。供述の不可分性が主張される際、本判例を根拠に「全体の趣旨を歪めないか」「他の証拠との整合性があるか」という視点で、一部引用の許容性を論じる際の準拠となる。
事件番号: 昭和29(あ)329 / 裁判年月日: 昭和29年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】供述者の不可分的供述の一部を、供述全体の趣旨と異なる意味において事実認定の資料とすることは許されないが、全体としての趣旨を損なわない範囲で供述の一部を証拠として採用することは適法である。 第1 事案の概要:被告人がAに対し、昭和27年9月29日頃に金2000円を供与したという事実について、第一審及…