判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、勾留延長の手続の適法性や、自白強要の形跡、証拠同意の有無等の諸事情を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
逮捕から起訴、さらに起訴後の保釈却下を経て長期間拘禁された状況下で作成された検察官面前調書が、憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長い拘禁後の自白」として証拠能力を否定されるべきか。
規範
憲法38条2項及び刑訴法319条1項の「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として証拠能力が否定されるためには、単に拘禁期間が長いだけでは足りず、その拘禁に至る手続の適法性、自白に至る経緯において強要等の不当な働きかけが認められないこと、及び被告人の防御権の行使状況等を総合的に考慮して、自白の任意性に疑いがある事態を指すと解する。
重要事実
被告人Aは、昭和27年2月1日に逮捕、同月4日に勾留され、同月22日まで勾留延長された後、同日に起訴された。起訴後、4回にわたり保釈請求が却下されたが、同年6月24日に保釈許可決定がなされ同月27日に釈放された。問題となった検事に対する2通の供述調書は、逮捕から約20日後及び約50日後(起訴後)の時点(2月21日及び3月19日)で作成されたものであった。弁護人は、これらが不当な長期拘禁後の自白であり憲法違反であると主張して上告した。
あてはめ
まず、勾留延長等の手続はそれぞれ正当な理由に基づき適法に行われており、手続上の違法は認められない。次に、当該2通の供述調書は作成日付に照らして、直ちに不当長期拘禁後の自白と断定できるほどの時間的経過ではない。さらに、一審の証拠調べにおいても自白強要の形跡は認められない。加えて、被告人は記録上、当該供述調書を証拠とすることに同意している。これらの事情を総合すれば、本件の自白が不当な拘禁によるものとはいえない。
結論
本件各供述調書は不当長期拘禁後の自白には当たらず、証拠能力を有する。したがって、違憲の主張は前提を欠き、上告は棄却される。
実務上の射程
長期拘禁と自白の任意性に関する初期の重要判例。単なる期間の長さだけでなく、勾留手続の適法性や強要の有無、さらに実務上は「証拠同意」の有無が判断を左右する事実として重視されている。答案上は、319条1項の「不当に長い拘禁」の意義を論じる際、手続の適法性と任意性への実質的影響を相関的に検討する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)88 / 裁判年月日: 昭和27年2月14日 / 結論: 棄却
記録によると、被告人Aは昭和二四年九月二〇日恐喝未遂事件(原判決判示第一の(一)の事実)の嫌疑により勾留状の執行を受け、名古屋拘置所代用監獄起町警察署に勾留されたのであるが、本件が複雑で関係者多数のため取調困難という理由で同年一〇月九日まで勾留期間が延期され、その期間終了の前日である同月八日右恐喝未遂事件で起訴せられた…