記録によると、被告人Aは昭和二四年九月二〇日恐喝未遂事件(原判決判示第一の(一)の事実)の嫌疑により勾留状の執行を受け、名古屋拘置所代用監獄起町警察署に勾留されたのであるが、本件が複雑で関係者多数のため取調困難という理由で同年一〇月九日まで勾留期間が延期され、その期間終了の前日である同月八日右恐喝未遂事件で起訴せられたものである。そして第一審裁判所では、同月一九日の第一回公判期日が指定されたが、被告人の弁護人選任の都合、相被告人不出頭等の関係から公判期日は延期を重ね、同月二八日の第三回公判期日ではじめて事件の審理が為されるに至つたのである。しかるに同被告人が右の勾留中に犯した本件職務強要罪(判示第一の(二)の事実)で同年一二月一七日追起訴されたため同月一九日開廷される筈であつた第四回公判期日は変更され、翌昭和二五年一月一八日に開廷されることになり、この公判において同被告人は右追起訴にかかる強要罪の事実につき原判決が証拠とした所論の自白をなしたものである。すなわち所論の自白は他の犯罪で勾留後四ケ月目本件犯行後一ケ月二〇日目になされたものであり、所論のように「一年近くに亘る……拘禁後の自白」ではない。そして事実の内容、手続の経過その他諸般の事情を勘案すれば所論の自白は必ずしも不当に長く拘禁された後の自白といい得ないものであることは、昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日の大法廷判決(判例集二巻号一七頁以下参照)の趣旨に照らし明らかである。
他の犯罪で勾留後四ケ月目本件犯行後一ケ月二〇日目の自白と憲法第三八条第二項
憲法38条2項,刑訴法319条2項
判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、単に期間の長さのみならず、事実の内容、手続の経過その他諸般の事情を勘案して判断すべきである。
問題の所在(論点)
憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」の意義、および数か月の拘禁を経てなされた自白の証拠能力の可否が問題となる。
規範
自白が「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるかは、身拘束の期間だけでなく、事件の複雑性、関係者の人数、公判期日の指定状況、追起訴の有無といった手続的経緯など、諸般の事情を総合的に考慮して判断する。
事件番号: 昭和26(れ)1997 / 裁判年月日: 昭和27年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い抑留・拘禁の後の自白は証拠能力を否定されるが、警察への引致から約3週間ないし5週間後の自白は直ちに不当に長い抑留・拘禁後の自白には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は昭和21年9月3日に警察に引致された。その後、同年9月26日に第1回聴取書が、同年10月11日に第2回聴取書がそれぞれ…
重要事実
被告人は昭和24年9月20日に恐喝未遂容疑で勾留された。事件の複雑さと関係者多数のため勾留期間が延長され、同年10月8日に起訴。その後、弁護人選任や相被告人の不出頭により公判期日の延期が重なり、10月28日に初公判が行われた。勾留中の別罪(職務強要罪)により12月17日に追起訴された際、公判期日が再度変更され、昭和25年1月18日の公判で自白に至った。弁護人は約1年の拘禁後の自白だと主張したが、実際には別罪での勾留から約4か月、本件犯行後約1か月20日後の自白であった。
あてはめ
本件の自白は、当初の勾留から約4か月、追起訴の対象となった犯行から1か月余りという期間でなされている。手続面では、事件が複雑で関係者が多く取調に時間を要したこと、弁護人選任や相被告人の不出頭といった被告人側の事情や手続上の必要から公判が延期されたこと、さらに勾留中に別の犯罪が発覚し追起訴されたことなど、正当な理由に基づく手続の経過が認められる。これら諸般の事情を勘案すれば、単に期間が数か月に及んでいることをもって「不当に長い拘禁」にあたるとはいえない。
結論
本件の自白は、不当に長く拘禁された後の自白には該当せず、証拠能力が認められる。
実務上の射程
自白排除法則における「拘禁期間」の評価について、形式的な期間の長さだけでなく実質的な手続遅延の正当性を考慮する枠組みを示した。答案上は、身柄拘束期間が長期にわたる事案において、事件の性質や公判手続の経緯を拾って、拘束の不当性を否定(または肯定)する際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和27年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈出所から1か月以上経過した後になされた自白は、憲法38条2項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、第一審において昭和24年10月24日に保釈出所した。その後、被告人が第一審の公判廷において自白を行ったのは、保釈出所の日から1か月以上が経…
事件番号: 昭和25(あ)3136 / 裁判年月日: 昭和26年6月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘禁された後の自白(刑訴法319条1項)に該当するか否かは、記録上の具体的な拘禁状況を精査して判断すべきであり、弁護人が主張する事由が認められない場合には、証拠能力を否定することはできない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、第一審判決が不当に長く拘禁された後の自白を証拠として採用…