判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の判断にあたっては、拘禁期間のみならず、事件の複雑性や共犯者の数、当時の裁判所の状況等を総合考慮すべきであり、自白が拘禁と因果関係を有しない場合は証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
逮捕・勾留から数ヶ月が経過した後にされた自白が、憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長い拘禁後の自白」として証拠能力を否定されるべきか。
規範
自白の証拠能力を否定すべき「不当に長い拘禁後の自白」に該当するか否かは、単に拘禁の期間のみで形式的に判断するのではなく、事案の内容の複雑性、共同正犯の人数、当時の裁判所における事件の輻輳状況等の諸般の事情を総合的に斟酌して判断すべきである。また、当該自白が拘禁と因果関係を有しないことが明白である場合には、任意性に疑いがあるとはいえず、その証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人は、他の共犯者十数名と共に拳銃や麻縄を用いて宿直員を抑圧し、繊維製品約1900余点を強奪した強盗事件に関与した。被告人は逮捕・勾留から約2ヶ月から3ヶ月半経過した予審および第1回公判期日に自白したが、それ以前に警察署において本件を任意に自供していた。弁護人は、当該自白が「不当に長い拘禁」後のものであるとして、その証拠能力を争った。
あてはめ
本件では、被告人は逮捕から約1ヶ月後には警察署において任意に自供しており、その後の予審や公判での自白はこれを再確認したものに過ぎないため、拘禁との因果関係は認められない。また、本件は多数の共同正犯が存在する複雑な事案であり、当時の下級裁判所の事件輻輳状況等を考慮すれば、勾留から2、3ヶ月程度経過した後の自白であっても、直ちに不当に長い拘禁後のものとはいえない。
結論
本件自白は不当に長い拘禁後の自白には当たらず、証拠能力が認められる。したがって、被告人を強盗罪の正犯とした原判決に違法はない。
実務上の射程
自白の任意性(刑訴法319条1項)に関する論点において、不当な拘禁の有無を判断する際の考慮要素を提示している。実務上は、期間の長短だけでなく、事案の性質や事前の任意自白の有無といった「因果関係」の有無が重視されるため、あてはめにおいてこれらの事情を拾い上げる際の指針となる。
事件番号: 昭和23(れ)497 / 裁判年月日: 昭和23年9月18日 / 結論: 棄却
一 かりに原判決が證據とした原審公判における被告人の自白前の拘禁が不當に長いものであるとしても、被告人は本件犯行については、拘禁後四〇餘日を經た豫審の取調べにおいて、すでに自白をしているのであり、更にその後七〇餘日を經た第一審公判においても同樣自白をしているのであつて、この程度の期間の拘禁は、前述の事情等からみて不當に…
事件番号: 昭和26(あ)88 / 裁判年月日: 昭和27年2月14日 / 結論: 棄却
記録によると、被告人Aは昭和二四年九月二〇日恐喝未遂事件(原判決判示第一の(一)の事実)の嫌疑により勾留状の執行を受け、名古屋拘置所代用監獄起町警察署に勾留されたのであるが、本件が複雑で関係者多数のため取調困難という理由で同年一〇月九日まで勾留期間が延期され、その期間終了の前日である同月八日右恐喝未遂事件で起訴せられた…