判旨
選挙運動の報酬として支払われた金員が、被告人自身の投票に対する対価の趣旨をも含むと認定されたとしても、直ちに憲法上の平等原則に反するものではない。原判決が「家長が家族の選挙権を左右できる」との趣旨で判示していない限り、事実認定の妥当性の問題にすぎない。
問題の所在(論点)
選挙運動の報酬が被告人自身の投票の対価を含むと認定することが、憲法が保障する法の下の平等や、自由な選挙権の行使を侵害する違憲なものといえるか。また、家長の権限に関する判断が憲法違反を構成するか。
規範
特定の金員が「投票及び投票取りまとめ選挙運動の報酬」として交付された場合、その報酬が被告人自身の投票の対価を含むものと解釈・認定することは、直ちに法の下の平等(憲法14条)や選挙権の自由行使を侵害するものではない。事実認定の問題として、交付された趣旨が客観的に特定できるか否かが判断の基準となる。
重要事実
被告人が、他者のために投票の取りまとめ等の選挙運動を行った際、その報酬として金員を受領した。第一審判決は、この金員が投票取りまとめの報酬のみならず、被告人自身の投票に対する報酬の趣旨をも含んでいると認定した。弁護人は、家長が家族の選挙権を左右できるかのような前提に立つ原判決(第一審を支持したもの)は、法の下の平等に反し違憲であると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、原判決の表現には妥当を欠く部分があるとしつつも、それが「家長が家族の選挙権を左右できる」あるいは「法の下に平等でない」ことを認めた趣旨ではないと判断した。第一審が示した証拠に基づき、交付された報酬に被告人自身の投票に対する対価が含まれていると認定したことは、証拠の信用性判断の結果にすぎない。したがって、認定された事実の前提が違憲であるとの主張は、判決の真意を誤解したものである。
結論
本件の事実認定は、憲法上の平等原則に反するものではなく、被告人自身の投票の報酬を含むと認定した判断は維持される。上告棄却。
実務上の射程
選挙犯罪における買収罪の成否において、交付された利益が「投票」と「選挙運動」のいずれの対価であるか、あるいは双方であるかは事実認定の問題である。本判決は、家長制度的観念が認定に混じっていたとしても、実質的に対価性が認められる限りは憲法違反の問題とはならないことを示唆しており、買収罪の構成要件判断における認定の幅を認めるものといえる。
事件番号: 昭和28(あ)5126 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動に対する報酬や投票取りまとめの報酬・費用として金員を供与する行為は、公職選挙法上の買収罪等に該当する。本件では、金員の供与が正当な趣旨で行われたとの弁護人の主張に対し、裁判所は確定事実に基づきこれを否定した。 第1 事案の概要:被告人は、選挙に際して他者に対し、1,000円および10,00…