判旨
選挙運動に対する報酬や投票取りまとめの報酬・費用として金員を供与する行為は、公職選挙法上の買収罪等に該当する。本件では、金員の供与が正当な趣旨で行われたとの弁護人の主張に対し、裁判所は確定事実に基づきこれを否定した。
問題の所在(論点)
被告人が供与した金員が、公職選挙法で禁じられている「選挙運動に対する報酬」または「投票取りまとめ等のための報酬および費用」に該当するか否か。特に、被告人が主張するような正当な趣旨に基づく供与といえるか、あるいは買収目的の報酬といえるかが問題となる。
規範
公職選挙法(当時)における買収罪等の成否は、供与された金員が「選挙運動に対する報酬」あるいは「投票取りまとめ等の運動に対する報酬および費用」としての実質を有するか否かによって判断される。正当な対価や政治活動費としての名目であっても、その実益が選挙運動への報酬と認められる場合には同罪が成立する。
重要事実
被告人は、選挙に際して他者に対し、1,000円および10,000円を供与した。弁護人は、これらの金員が正当な趣旨(判決文からは具体的な趣旨の詳細は不明)で供与されたものであると主張したが、原判決は、1,000円は選挙運動に対する報酬であり、10,000円は投票取りまとめ方の運動に対する報酬および費用として供与されたものであると認定した。
あてはめ
原判決の確定した事実によれば、本件金員のうち1,000円は「選挙運動に対する報酬」として、10,000円は「投票取りまとめ方の運動に対する報酬および費用」として供与されたものである。弁護人が主張するような「正当な趣旨」による供与という事実は、原判決によって否定されており、客観的に選挙運動の対価としての性格を有すると評価される。したがって、これらの金員供与は公職選挙法の禁止する報酬供与にあたると解される。
結論
本件金員の供与は選挙運動等の報酬として行われたものであり、公職選挙法違反罪(買収等)が成立する。
実務上の射程
本判決は、金員供与の趣旨が選挙運動の報酬か否かの事実認定が重要であることを示している。司法試験においては、名目の如何にかかわらず、実質的に選挙運動の対価といえる事実(投票依頼の有無、金額、時期等)を拾い、報酬性を肯定する際の規範適用のモデルとして活用できる。ただし、本決定自体は事実誤認を理由とする上告を棄却した簡短なものであるため、具体的な判断要素の展開には他の詳細な判例を併用することが望ましい。
事件番号: 昭和28(あ)4123 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
公職選挙法において選挙運動者が其の運動をすることについて報酬を受けることを禁じても、財産権を侵害するものではない。